REPORTS

アルノー・クラース氏ワークショップ
「アルゴリズム的ペルソナ――自動化されたメディアの擬人化がユーザーの反省に与える影響」報告

エヴァ・ルレイ(B’AI Global Forum 院生メンバー)

・日時:2023年5月23日(火)16:00~17:30(日本時間)
・場所:B’AI Global Forumオフィス(東京大学浅野キャンパス)
・言語:英語
・ゲストスピーカー:アルノー・クラース(関西大学 日本学術振興会ポストドクトラル研究員; 東京大学大学院情報学環 客員研究員)
・モデレーター:大月希望(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)

 2023年5月23日、B’AI Global Forumは、アルノー・クラース氏(関西大学 日本学術振興会ポストドクトラル研究員、東京大学大学院情報学環客員研究員)を迎え、「アルゴリズム的ペルソナ――自動化されたメディアの擬人化がユーザーの反省に与える影響」と題した対面のワークショップを行った。この研究会は、2023年4月21日開催の2023年度第1回BAIRAL研究会でクラース氏が発表した「推測のインターフェイスを実験する――アルゴリズムの遂行に関する研究のためのデザインに基づいたアプローチ」を引き継いだものだ。

   クラース氏の現在の研究は、主にHuman-Computer Interaction(HCI)と推薦アルゴリズム(ユーザーの好み、過去の行動、類似ユーザーの行動に基づいて、関連するアイテムやコンテンツを予測し、ユーザーに提案する情報フィルタリングシステム)に焦点を当てている。電子商取引プラットフォーム、ストリーミングサービス、ソーシャルメディアプラットフォーム、ニュースサイトなど、さまざまな領域で推薦システムが人気を集める中、クラース氏は、社会科学のレンズを通してそれらを検証し、相互反映的なガイドラインと洞察を提供することを目指している。

 研究会の焦点は、特に公共サービスメディアで使用される推薦システムの擬人化と、それがユーザーのエンゲージメントに及ぼす影響を探ることであった。議論の出発点として、クラース氏は、擬人化によってユーザーがシステムの技術的な複雑さを把握できなくなると認識するのは不適切な視点かもしれないと提起した。その代わりに、擬人化はユーザーの自動化されたメディアに対する理解を深め、より深い関わりを育むことができると述べた。この視点は、人間以外の存在に人間の特徴を持たせることを意味する擬人化が、「隠喩的投影」(Lakoll & Johnson, 2003)であるとの認識から生まれたもので、人間の相互作用に関する知識を動員することで、ユーザーは自動メディアの特徴や操作について理解を深めることができる。また、擬人化が地域によって大きな意味を持つことは間違いなく、特にアニミズムや非人間的な存在にまつわる豊かな遺産を持つ日本では、擬人化の文化的意義は大きい。

この議論を裏付けるために、クラース氏はベルギーの公共サービスメディア会社と共同で設計した自動メディアシステムの例を紹介した。このシステムは「ALVEHO」と呼ばれ、ユーザーが自分の好みを形成し、メディア体験をカスタマイズすることに積極的に参加できるようにするものである。これは、システムの制御パラメータを可視化・効率化することで実現され、制御性、ユーザーエンゲージメント、推奨の精度を向上させている。クラース氏は「ALVEHO」を紹介する一方で、システムを擬人化するための代替的なアプローチも提示した。例えば、アバターの作成などである。擬人化の目的は、コンピュータサイエンスの分野で一般的な、システムに対する盲目的な信頼感ではなく、批判的な視点を養い、デバイスの欠点を見極めることにある。つまり、揺るぎない信頼を求めるのではなく、ニュアンスの異なる視点を持つことを目的としているのである。

 参加者の間では、システムにおける擬人化の有用性と、その結果生じる可能性のあるバイアス、疎外されたユーザーへの影響について、主に議論された。参加者は、このようなバイアスに対処し、システムのカスタマイズ機能が排除的な慣習を永続させないようにすることの重要性を強調した。クラース氏は、このような懸念に同意し、メディア企業が設計プロセスにおいてより大きな責任を負う必要があることを繰り返し述べた。

 結論として、クラース氏の発表は、擬人化とテクノロジーの相互作用について、新しい洞察に満ちた視点を提供した。またこれは、推薦システムの擬人化に伴う潜在的なメリットを明らかにすることで、AIリテラシーやメディア教育の探求と強化に大きく貢献するものであった。さらにこの発表は、システム設計への深い考察を促し、自動化技術の開発および実装に対するより思慮深い、良心的なアプローチを促進するものだと言える。