REPORTS

第31回B’AI Book Club報告
Axelsson, Bodil, et al. (2022) Museum Digitisations and Emerging Curatorial Agencies Online: Vikings in the Digital Age

大月希望(B’AI Global Forumリサーチ・アシスタント)

・日時:2024年8月24日(火)13:00-14:30
・場所:ハイブリッド(B'AI オフィス & Zoomミーティング)
・使用言語:日本語
・評者:大月希望(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)
・書籍:Axelsson, Bodil, et al. (2022). Museum Digitisations and Emerging Curatorial Agencies Online: Vikings in the Digital Age. Springer Nature.

2024年8月24日、B’AI Global Forumのプロジェクトメンバーと関係者が参加する書評会「B’AI Book Club」の第31回がハイブリッドで開催された。今回の書評会では、B’AIリサーチ・アシスタントの大月希望が、書籍『Museum digitisations and emerging curatorial agencies online: Vikings in the digital age』(2022)を紹介した。

本書は、「In Orbit: Distributed Curatorial Agency When Museum Objects and Knowledge Go Online(評者訳:軌道上:博物館のモノと知識がオンラインに移行した際の分散型キュラトリアル・エージェンシー)」というプロジェクトの成果として出版された。本書では、デジタル化による博物館の知識の流通の変化について、スウェーデン歴史博物館のヴァイキング時代のコレクションを中心に4人の著者が各章で分析する。博物館におけるコレクション管理という使命と、デジタル資本主義の社会、技術、物質的なインフラへの依存との交点に位置づけられるcuratorial agencyの概念を用いて、オンライン空間での議論、検索エンジン、機械学習、生態系プロセスが博物館の知識の流通に与える影響を論じた。人間中心主義的な解釈から離れ、新物質主義やポストヒューマニズムの視点を取り入れ、デジタル化された遺産は生態学的構成物、curatorial agencyは生態系のようなプロセスとして捉える新しい理論的枠組みも提案された。著者4人のそれぞれ異なるアプローチによる分析の結果、curatorial agencyは人間的・主観的側面、機械的・計算的側面、人間以上の存在論的形成に組み込まれた側面という3つの側面を同時に持つものとして結論づけられた。博物館の知識が複数のプラットフォームを介して流通する際にパーソナライズされオープンエンドになることが示された。

ディスカッションでは、デジタル情報流通時代において博物館のコレクションや知識が再解釈、再文脈化、個別化される中で、博物館や学芸員、キュレーターはどう専門的知識を提供すべきかや、人間や機械学習による予期せぬ利用や解釈を想定して流通させる必要があるのかといった点について議論がなされた。B’AI Global Forumが日本科学未来館と共同で取り組んでいるサイエンスコミュニケーションに関するプロジェクトを参照した議論もあった。具体的には、同館にある「問いボード」では時間と空間を共有していない他人の考えに出会えることや、専門家の理解を超えてくる他者(the Other)とデジタル空間における知識の想定外利用の関連性などである。また、デジタル空間においてパーソナライズや機械学習と同様に無視できないものとして、従来の社会と同様に市民科学(citizen science)や一般市民キュレーターの存在が挙げられる。そのようなあらゆるcuratorial agencyの動向が博物館の知識や科学技術・知識の流通および解釈に関与する時代において、専門家の役割は常にアップデートされる必要があるが、現在の日本においてはデジタル時代に対応できる専門家・専門職が少ない。さらに、とりわけ博物館やデジタルアーカイブにおける来歴情報の重要性も高まっており、資料や資料価値の流動性も踏まえて取り組むべき課題である。