REPORTS

第35回 B’AI Book Club 報告(※研究発表)
「20 歳前後の女性によるInstagramの使用とアルゴリズムの影響に関する調査」

加藤穂香(B'AI Global Forum 特任研究員)

・日時:2025年1月28日(火)13:00-14:30
・場所:B’AIオフィス&Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・報告タイトル:「20 歳前後の女性による Instagramの使用とアルゴリズムの影響に関する調査」
・報告者:山本恭輔(東京大学大学院学際情報学府 博士課程)
     加藤穂香(B'AI Global Forum 特任研究員・国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科 博士後期課程)      

2025年1月28日(火)、B’AI Global Forumのプロジェクトメンバーとその関係者が参加する書評会「B’AI Book Club」の第35回がオンラインと対面のハイブリッド形式で開催された。今回の書評会では、B’AI Global Forumの研究プロジェクトの一つである「AI/アルゴリズムとジェンダー不平等」研究グループ*の山本・加藤より、2024年度の研究の報告**が行われた。

2024年度の研究では、10代・20代の若年女性が日常的に使用し、ジェンダー規範意識の形成に深刻な影響を与えていると考えられるソーシャルメディアの一つである「Instagram」に焦点を当てた。Instagramの使用に際し、若年女性たちがレコメンド機能によりどのようなコンテンツに接触し、どのような影響を受けているのか、また彼女たちがInstagramのレコメンド機能による自らの認識や選択への影響をどのように捉えているのかを明らかにすることを目的に調査を設計した。具体的には、1)日本および現在日本在住の中国の若年女性たちのInstagramの利用実態とコンテンツ接触状況、2)彼女たちのInstagramの利用が美容・体型やファッション等に関する規範意識や考えおよび実践へ与える影響、3)彼女たちのInstagramの利用実態と、広く社会から期待されているとされるジェンダー規範との関係性に着目し、アンケート調査と、スクリーンショットデータ収集およびインタビュー調査を実施した。

アンケート調査では、調査会社に依頼し、Instagramの利用状況やレコメンドシステムに対する意識に関する17項目の質問に対する回答を収集した。調査対象者は、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)在住の18〜26 歳の女性(性自認)とし、300名分の回答が集まった。スクリーンショットデータ収集およびインタビュー調査では、機縁法で集めた参加者に、美容、ダイエット、そのほかジェンダーにかかわるようなトピックについての広告やレコメンドコンテンツのスクリーンショットと、それらを閲覧した状況に関するメモを、最低3日間分、InstagramのDM 経由で送信してもらった。スクリーンショット提供者に対しZoomでインタビューを実施した。スクリーンショット提供とインタビュー調査の両方への参加者を有効なデータとし、9名分のデータが集まった。

アンケート調査の結果で特筆すべきは、Instagramの利用率の高さとそこで接触するコンテンツに対する意識のばらつきである。回答した300名全員がInstagramを利用し、また300名中約6割がInstagramを最も頻繁に使用するSNSであると答えた。またInstagramに表示される投稿が「広告」であることを意識している人が約6割いた。一方で「広告的な投稿」がパーソナライズされていると感じたことがある・ない・わからないとする割合はおおよそ3割ずつで、広告がパーソナライズされていると感じたことがある人のうち、それを良いまたは気にしないと捉えているのは約4割、嫌であると捉えているのは5割であった。このように今回の調査で得られた限られた量的データからうかがえる全体の傾向のみで議論することには限界がある。

アンケート調査の結果からは見えてこないユーザーたちの実践や意識は、スクリーンショットデータ収集およびインタビュー調査から見えてきた。注目すべきは三点ある。第一に、若年女性たちのInstagramのアルゴリズムに対する主体的なかかわりについてである。彼女たちは、自分の関心のある情報が得られるように、表示された投稿へのリアクション——非表示操作や、コンテンツ閲覧時間の調節などを行い、アルゴリズムのトレーニングをしていた。彼女らはプラットフォームのアルゴリズムを積極的に活用しながら、美容や脱毛といった規範的なジェンダーイメージを強化するコンテンツに接触していた。

第二に、Instagramから受ける影響の個人化についてである。彼女たちは社会において理想とされる、痩せていて美しい体型や容姿のイメージを持っており、Instagramで出会った商品の購入や、コーディネート、美容実践等を通じてその規範を実践していた。そして Instagramにおける投稿の閲覧や、関心のある商品のチェックといった行為を自らの選択と関心に基づく行為として捉えていた。 

第三に、Instagramを通したジェンダー規範への抵抗の限界についてである。若年女性たちは、ジェンダー規範を押し付けられていると感じるコンテンツや動画に接触した際には嫌悪感を抱き、接触を回避するために広告を「非表示」にしたり、他のコンテンツの閲覧に移るなどの行動をとり、「押し付け」に抵抗していることがインタビューからうかがえた。しかしこのような抵抗はいつも成功するわけではなく、彼女たちは継続的にプラットフォーム上で「不快感を減らす努力」をしている。​​ジェンダー規範の押し付けに対する抵抗の手段が、実社会で声を上げることではなく、デジタル空間で出会う投稿へアクションをするという限定的なものになっていることが示唆された。

報告後の議論においては、参加者より次のようなことが指摘された。まず、調査協力者たちのバックグラウンドの個別性と均質性を考慮した、より丁寧なデータ分析が必要なのではないかということ。次に、若い女性たちのジェンダー規範意識が醸成されるプロセスを社会・政治的な動向を踏まえて検討することが重要ではないかということである。若年女性たちはあらゆるメディアやプラットフォーム、そしてオフラインでの関係をもとにジェンダー規範意識を持ち、実践しながらInstagramを利用している。本調査結果の限界を認識し、またどの研究領域の文脈に位置付けるべきかを見定めることは、今後の重要な課題になると考えられる。

このように本会は、若年女性のInstagramの利用実態に関する調査結果を通じて、AI/アルゴリズムとジェンダー規範との関係性について考える、学びの多い機会となった。研究グループでは、本会での議論をもとに、今回の調査結果についてより精緻な分析を行い、論文投稿につなげたいと考えている。

*「AI/アルゴリズムとジェンダー不平等」研究グループは、田中東子教授(東京大学大学院情報学環・学際情報学府)のもと、以下の4名の大学院生によって構成されている(以下、五十音順)。

・加藤穂香(B’AI Global Forum 特任研究員・国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科 博士後期課程)
・毛雲帆(東京大学大学院学際情報学府 修士課程)
・山本恭輔(東京大学大学院学際情報学府 博士課程)
・渡邊莉子(慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻 修士課程)

** 本研究内容は、2024年11月30日の科学技術社会論学会第23回年次研究大会 オーガナイズドセッション「AI/アルゴリズムと新しい社会倫理」(オーガナイザー:田中東子)でも報告された。