2025.Jun.24
REPORTSCulturIA & B’AI 共催シンポジウム 2025「AIとアート」報告
アマエル・コニャック、プリヤ・ム(B’AIグローバル・フォーラム リサーチ・アシスタント)
日程:2025年6月18日(水)14:00~17:30、および 2025年6月19日(木)14:00~17:40(日本時間)
会場:東京大学 本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター
使用言語:英語
主催:東京大学Beyond AI研究推進機構 B’AI Global Forum /フランス国立研究機構(ANR)CulturIA/フランス国立科学研究センター(CNRS)
後援:東京大学Beyond AI研究推進機構 /フランス国立研究機構(ANR)
2025年6月18日と19日、東京大学伊藤国際学術研究センターにて、CulturIA & B’AI共催シンポジウム「AIとアート」が開催されました。CulturIAは人工知能に対する文化的アプローチを提供する学際的プロジェクトであり、Sorbonne Nouvelle University(ソルバンヌ・ヌーベル大学)、Centre Internet et Société(インターネットと社会センター)、Inria(フランス国立情報学自動制御研究所)が共同で運営し、CNRS(フランス国立科学研究センター)によって資金提供されています。B’AI Global Forumは、AI時代におけるジェンダーやマイノリティと情報技術の関係を探索する研究チームで、東京大学のBeyond AI研究推進機構のプロジェクトの一つとして発足しました。
開会の挨拶では、東京大学教授でBeyond AI研究推進機構のディレクターである萩谷昌己教授が、東京大学とソフトバンクの共同プロジェクト「Beyond AI」の概要と、その中で果たしているB’AI Global Forumの役割や成果について紹介してくださいました。
初日の第1セッション「AI、アート、倫理」では、B’AI Global Forum特任助教のイ・ミンジュ氏をモデレーターに迎え、3名が発表しました。松井裕美氏(東京大学准教授)は、シュルレアリスム芸術運動とAI技術の交差点と根本的な相違について探求しました。Pauline Hachette氏(Université Paris 8 Vincennes-Saint-Denis, Associate Researcher)は、Alain DamasioのSF小説におけるデジタル技術の政治性を考察し、テクノ・キャピタリズム的な管理社会における「生の技術」について論じました。Alexandre Gefen氏(CNRS Thalim, Full Research Professor)は、自身が共同キュレーションを務めたMusée du Jeu de Paume(ジュ・ド・ポーム国立美術館)での展覧会「The World Through AI」の事例を紹介し、AIと共に創作を行う現代アーティストたちのコラボレーション手法と、AIに関わる様々な問題意識を紹介しました。
第2セッション「AI、記憶、文化的想像力」では、Sciences Po博士課程のCarla Marand氏がモデレーターを務めました。呉先珍氏(B’AI Global Forum特任助教)は、懐古的なAIアプリケーションとジグムント・バウマンの「Retrotopia」概念との交差点を探り、現代の不確実性から逃れるために過去を理想化する社会的傾向について論じました。Ada Ackerman氏(CNRS Thalim, Permanent Researcher)は、考古学におけるAIの使用によって生まれる、不気味さを伴った「ありえたかもしれない」人工遺物を通じて、詩的かつ思索的な合成歴史を描き出しました。Marida Di Crosta氏(Jean Moulin Lyon 3 University, Professor)は、来場者の手を仮想の翼/鳥に変換しながら、データと情報を視覚化・抽出するインスタレーション作品「Boid Corner」について紹介しました。最後に、佐倉統氏(実践女子大学教授)は、日本の日常生活におけるAIの文脈で、「技術の社会的形成」(Social Shaping of Technology, SST)という概念について述べました。
2025年6月19日、シンポジウム2日目も東京大学伊藤国際学術研究センターで開催されました。前日のアート、倫理、記憶、想像力をめぐる議論を踏まえ、この日は言語、ポストヒューマニズム、ジェンダー、美的知覚におけるAIの役割に焦点が当てられました。
第3セッション「AI、言語、ポストヒューマニズム」では、板津木綿子氏(東京大学教授)をモデレーターに迎えました。何欣琪氏(立教大学助教)は、詩的言語における「ナンセンス」が、大規模言語モデル(LLM)における創造的表現の源として再評価できると論じました。Grant Jun Otsuki氏(東京大学准教授)は、フィクションにおけるAI翻訳の描写を通じて、人間による翻訳とデータ駆動型のAI翻訳との間にある文化的な隔たりを明らかにしました。Primavera De Filippi氏(Research Director, CNRS; Faculty Associate, Harvard)は、Plantoids(植物(Plant)とヒューマノイド(Humanoid)を合わせた造語)や動物といったブロックチェーンベースの「生命的」アート作品を紹介し、技術と芸術、生命性の境界を問い直しました。
第4セッション「AI、ジェンダー、美的知覚」は、Alexandre Gefen氏(CNRS Thalim, Full Research Professor)の司会で行われました。Simon Bréan氏(Université Sorbonne-Nouvelle Paris 3, Professor)は、フィクションに登場するAIキャラクターがどのようにジェンダー化され、その物語構造に影響を与えているかを分析しました。Galina Shyndriayeva氏(武蔵大学研究員)は、香水制作におけるAI導入と調香師の身体知との関係について述べ、医療現場の感覚的診断と比較しました。Carla Marand氏(Sciences Po博士課程)は、AIを活用しジェンダー規範に挑戦するフェミニスト/クィアアートの事例を通じて、技術と政治的実践の接点を示しました。久野愛氏(東京大学准教授)は、19世紀のパノラマから現代のVRまで、仮想的知覚の変遷をたどり、ヴァーチャルを実在的かつ潜在的な空間として再評価すべきだと提言しました。
2日間にわたる本シンポジウムは、AIが芸術表現、文化的物語、感覚体験、社会的価値観をいかに再構築しつつあるかを多角的に示しました。シュルレアリスムからブロックチェーンアート、ジェンダー化されたAIキャラクターからLLMの詩的ナンセンスまで、人間の創造性と知能技術との関係を捉え直す多様な視点が共有されました。