2025.Aug.15
REPORTS2025年度第2回BAIRAL研究会
「子ども研究から見るAI社会」報告
毛 雲帆(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)
・日時:2025年7月30日(水)18:00-19:30
・場所:Zoomミーティング(事前申し込み不要)
・使用言語:日本語
・ゲストスピーカー:Dr. Xiao ZHOU (助教、人文社会系、筑波大学)
・モデレーター:毛 雲帆(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)
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2025年7月30日、2025年度第2回BAIRAL研究会を開催した。今回は、筑波大学人文社会系で助教を務めるDr. Xiao ZHOUをお招きし、「子ども研究から見るAI社会」というテーマでご講演いただいた。
ZHOU氏は、AI社会における「責任」の概念を、子どもの発達段階や「子ども期」研究というユニークな視点から考察した。犯罪社会学、法社会学、未成年者研究など多岐にわたる分野で研究を行ってきたZHOU氏は私たちが生きるデジタル時代におけるAIと責任という新たな課題に注目している。今回の講演では、ZHOU氏はデジタル時代の新たな課題である現実と仮想の境界線に問題提起し、AI社会における「責任」の再定義の必要性を提示したうえ、「子ども」とAIの類似性、そして新たな仮説を立てた。続いて、 「子ども」研究から「子ども期」研究への道のりを踏まえ、「子ども期」研究が示すAI社会の未来について言及した。
ZHOU氏によれば、デジタル時代の法的課題としては、ディープフェイクによる肖像権・名誉権侵害や詐欺、仮想空間での性暴力など、AI技術が引き起こす新たな問題が深刻化している。それに対して、現在の法律やプラットフォームの対応には限界があり、特に仮想空間での性犯罪は刑事犯罪になりにくいという課題がある。 現在、AIは独立した意思や思考能力を持たない「道具」と見なされており、法的・道徳的な責任を負う主体とはなれない。そのため、AIが問題を起こした場合の責任は、エンジニア、利用者、製造者といった人間に帰属するとされている。
講演では、AIが「弱いAI(特定機能)」から「強いAI(汎用知能)」へと発展するプロセスが、「子ども」が未熟な状態から知的発達を遂げるプロセスと重なるという仮説を提示している。このような類似性から、「子ども期」研究(子どもを単なる保護対象ではなく、能動的な主体、社会的に構築された存在として捉える研究)の視点が、これからのAI社会における「責任」や「主体性」を考える上で有効であると提案した。
特に「ポストヒューマン的な子ども期研究」は、人間と非人間の区別なく、すべてが相互に関連しあう中で「主体性」が生まれると捉える。この考え方をAIに応用することで、AIを単なる「責任を追及される主体」としてではなく、人間、非人間的なもの、環境、技術などが深く絡み合う「相互関連性」の中で「責任を持つ存在」として捉える新たな視点が可能になると考察している。これにより、AIの行為主体性を、非言語的な表現(ジェスチャー、動き、音)にも見出すことができるようになるだろうと結ぶ。
今回の講演は、ZHOU氏はAIが社会に深く浸透する中で生じる倫理的・法的課題に対し、従来の人間中心的な考え方を超え、より包括的で関係性に基づいた「責任」の概念を再構築する必要性を提示している。