REPORTS

第2回B’AI Book Club報告
Rana El Kaliouby and Carol Colman, Girl Decoded: A Scientist’s Quest to Reclaim Our Humanity by Bringing Emotional Intelligence to Technology (2020)

ノ・ジュウン(B’AIグローバル・フォーラム特任研究員)

・日時・場所:2021年6月22日(火)17時~18時半 @Zoomミーティング
・書籍: Rana El Kaliouby and Carol Colman (2020). Girl Decoded: A Scientist's Quest to Reclaim Our Humanity by Bringing Emotional Intelligence to Technology. New York: Currency.
・使用言語:日本語
・評者:ノジュウン

2021年6月22日、B’AIグローバル・フォーラムのプロジェクトメンバーが行う書評会「B’AI Book Club」の第二回が開催された。AI時代におけるジェンダー平等問題など、AIテクノロジーと社会との関係を批判的に考える文献を紹介・議論するのが本書評会の目的である。第二回では、B’AIグローバル・フォーラム特任研究員・ノジュウンがRana El Kalioubyの『Girl Decoded: A Scientist’s Quest to Reclaim Our Humanity by Bringing Emotional Intelligence to Technology』(Currency, 2020)を紹介した。

 

著者ラナ・エル・カリウビィ(Rana El Kaliouby)は、感情認識AIスタートアップ企業「アフェクティバ(Affectiva)」のCEO兼共同創立者である。感情認識AIとは、たとえば人間の顔イメージをデータにして学習したAIに限っていうと、人間の表情からその人の感情を測るAIである。本書は学術書というよりは著者が感情認識AIを開発してスタートアップ企業を立ち上げるまでのストーリーを語っている自伝書に近い。本書には感情認識AI技術の活用事例も詳しく紹介されているため、専門知識がない読者でも感情認識AIについて理解することができる。書評会では、本書の内容よりは感情認識AIと人間・社会との関係を中心にした議論が活発に行われた。

 

第1の論点は、感情認識AI技術の応用をめぐる議論であった。技術的にAIが人間の感情を測ることが可能になったとしても、それが人間のコミュニケーションにどれほど役に立つのかという疑問が提起された。感情認識AIが人間の表情を読み取るには正確性が求められるが、実際、人間が他人の表情を読み取るにはそれぞれの解釈があり、正確ではない解釈も含めて人間関係が生まれるからである。また、感情労働という用語が示すように感情の強制がある社会の中で、このような技術をどのように使えるかの問題も指摘された。すなわち、AIが人間の感情を認識することができるかの技術的問題と、その技術を応用して人間社会においてどのように機能させるかの2つの問題を区別してみる必要があるという問題提起であった。

 

第2の論点としては、AI技術と感覚の問題が挙げられた。視覚と聴覚だけで人の感情を読み取ることが可能かという技術的問題は別にして、AIが表情から感情を読み取るというのは、視覚中心の世界になってしまうのではないかという懸念も議論された。逆に、表情から感情を認識するAIサービスという発想自体が、現代の社会がすでに視覚中心主義にとらわれていることを示す証左であると言えるかもしれない。いずれにせよ、人間というのは自分の感覚すべてを通して周辺環境を認識する存在であり、色々な感覚が交わっているのが社会であることには間違いないだろう。

今回の書評会では、技術の開発とその応用は別次元の問題であることが議論され、その重要性が強調された。AI技術の応用にあたってその利益が多いか、濫用のリスクが高いかを秤にかけることより、技術と人間が共存する社会のあり方に対する批判的想像力が重要であることを感じる機会であった。