REPORTS

第10回B’AI Book Club報告
Erik J. Larson, The Myth of Artificial Intelligence: Why Computers Can’t Think the Way We Do (2021)

ノ・ジュウン(2022年度B’AI特任研究員)

・日時・場所: 2022年4月26日(火)17:30-19:00 @Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・書籍: Erik J. Larson (2021). The Myth of Artificial Intelligence: Why Computers Can’t Think the Way We Do. Harvard University Press.
・評者:板津木綿子(東京大学大学院情報学環教授)

2022年4月26日、B’AIグローバル・フォーラムのプロジェクトメンバーが行う書評会「B’AI Book Club」の第10回が開催された。AI時代におけるジェンダー平等問題など、AIテクノロジーと社会との関係を批判的に考える文献を紹介・議論するのが本書評会の目的である。第10回では、B’AIグローバル・フォーラムの板津木綿子教授が、Erik J. Larson氏の著作『The Myth of Artificial Intelligence: Why Computers Can’t Think the Way We Do』(2021)を紹介した。

板津教授によれば、本書はAGI(Artificial General Intelligence=汎用人工知能/強いAI)が実現できるというのは神話にすぎないし、現在のAI開発の原理そのものが見当違いだからAGI実現の見込みもゼロであると主張している。AI研究の手法とAI研究が目指している目的が一致していないというのが、本書の論点である。例えば、人間がこれまで発見できなかった法則をビックデータの処理によって抽出することができると思っているのは誤解であるという。

著者はこの論点からAGIが実現できるという神話がもたらす有害についても説明する。すなわち、AIが人間の能力を超えるようになり、人間の方が劣等になったという「デマ」が流布され、AI神話が人間の可能性に歯止めをかけるのである。また、人間のような直感的論理やコモンセンスのような思考をプログラミングする方法はまだ開発されていないため、いま必要なのは創造的な理論を果敢に構築することであり、この創造性と感性を要する作業は人間にしかできないと、本書は主張する。

板津教授による導入の後は、本書が示したAI研究の手法と目的の不一致に関する言語学からの疑問や、AI研究を俯瞰的に評価する必要性について多くの議論が交わされた。