REPORTS

2023年度第6回BAIRAL研究会
「asEars: 片耳難聴用ウェアラブルデバイスの設計とユーザ体験の評価」報告

金佳榮(B’AI特任研究員)

・日時:2024年3月18日(月)17:00-18:30
・場所:Zoomミーティング
・言語:日本語
・ゲストスピーカー:高木健(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士課程)
・モデレーター:大月希望(B’AIリサーチ・アシスタント)

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2024年3月18日(月)、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の2023年度第6回がオンラインで開催された。今回は、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士課程の高木健さんをお招きし、「asEars: 片耳難聴用ウェアラブルデバイスの設計とユーザ体験の評価」というテーマでお話しいただいた。

asEarsとは、高木さんが研究開発に関わった片耳難聴者の聞こえをサポートするメガネ型デバイスである。自身も片耳難聴の当事者である高木さんは、片耳が聞こえないことから生じる日常的コミュニケーションにおける不便や社会参画への支障が大きいにもかかわらず補聴器の普及率が4%程度に留まっている現状を改善する必要があるという問題意識から、従来の補聴器よりユーザビリティや社会的受容性の高いデバイスの研究開発に取り組んだという。さらに、このようなデバイスを受け入れる人と受け入れない人の間にどのような違いがあるのか、どのような要因がデバイスの社会的受容性に影響を与えるのかを明らかにするために、10名の片耳難聴者の協力を得て、ユーザー体験の分析を行っている。その際、asEarsと従来のCROS補聴器をそれぞれ2週間ずつ使用してもらい、両者を比較するという方法で研究が設計された。

調査の結果、デバイスの効果と聞こえの自然さ、そして周りの人の影響(周りの人に「当該デバイスを使うべき」と思われる度合い)の項目で、asEarsがCROS補聴器より高く評価されていることがわかった。一方で、使いやすさなど、CROS補聴器の方が高く評価された項目もあるが、複数の項目を総合して導出された全体的な満足度では、asEarsの方が従来の補聴器に比べてより受け入れやすいことが明らかになった。さらに、ユーザー・インタフェースの側面においてCROS補聴器から得られる学びもあったとして、デバイスを小型化すると快適さは増すものの、それが必ずしも社会的受容性の向上につながるとは限らないという点が挙げられ、ユーザーの選択肢を増やすためには今後さまざまな見た目の好みに対応できるような多様なデザインの開発が必要であると指摘された。

発表に続くディスカッションでは、asEarsの技術的仕組み、実験参加者のさまざまな属性がデバイスの受容度に与える影響、さらには、理工系の分野における当事者研究の現状および課題など、多岐にわたる質問が参加者から寄せられ、活発な議論が交わされた。新しい技術が障害者を含むマイノリティへの手助けや権利保障のために用いられるよう提言していくことをミッションとしているB’AI Global Forumにとって、高木さんの実践的な取り組みは、技術の開発と社会実装に当事者らステークホルダーの視点を取り入れることの重要性を喚起するなど、非常に示唆的なものであった。