2025.Feb.04
REPORTS第32回 B’AI Book Club 報告(※研究発表)
「Location-Sharing and Privacy Attitudes Among Youth: A Comparative Study of Japan and the U.K.」
張静雨・平松里彩(東京大学大学院学際情報学府 修士課程 藤田結子研究室)
・日時:2024年10月22日(火)13:00-14:30
・場所:B’AIオフィス&Zoomミーティング
・使用言語:英語
・報告タイトル:Location-Sharing and Privacy Attitudes Among Youth: A Comparative Study of Japan and the U.K.
・報告者:張静雨・平松里彩(東京大学大学院学際情報学府 修士課程 藤田結子研究室)
2024年10月22日の第32回B’AIグローバル・フォーラムの書評会「B’AI Book Club」がハイブリッド形式で開催され、張静雨と平松里彩が現在取り組んでいる「位置情報共有アプリの利用状況からみる若者のプライバシー意識-日本とイギリスの比較検討-」をテーマにした研究について発表が行われた。
デジタル社会において位置情報の利用はさまざまな分野において浸透しており、ZenlyやInstagramを代表とする位置情報共有機能を持つソーシャルメディアはとりわけ若者の間で広まっている。しかし、同時に位置情報利用をめぐる情報セキュリティに関する透明性の欠如が、オンライン・プライバシーに関する懸念を一層強めている。このような状況の中で、「なぜ若者はリスクを認識しながらも位置情報を共有することを選ぶのか」という問いが浮かび上がる。「プライバシーパラドックス」という概念が示しているように(Dienlin&Trepte, 2015)、若者たちはオンライン上でのプライバシーについて不安を示す一方、インターネット上で主体的に個人情報開示をする。この矛盾に焦点をあて、本研究は位置情報共有機能を持つソーシャルメディアの利用を巡り、若者のプライバシー意識がどのようにソーシャルメディアの利用に反映されているかを検討し、若者のソーシャルメディアを介した位置情報共有の実態を把握することを通じて、デジタル時代におけるプライバシー意識の変容を展望することを目的とする。
位置情報共有機能がどのように使われているかまた利用者にどのような意義をもたらしているか(Chang&Chen 2014, Beldad&Kusumadewi 2015, Arai 2023)は研究されており、近年、研究方向はさらにプライバシーとセキュリティリスクの方にシフトしつつある(Li 2020, Centelles et al., 2021)。しかし、未だに位置情報に関するユーザーの対象を居住地で比較した研究は少ない状況である。そこで本研究ではリサーチクエスチョンとして、「日本とイギリスの若者のプライバシーに対する姿勢は、位置情報共有機能を備えたソーシャルメディアの使用にどのように反映されているのか?」という問いを設定し、質的調査を行った。
研究方法としては、2023年11月から2024年8月にかけて日本に在住する20代12名、イギリスに在住する20代10名、合計22名に半構造化インタビューを各人あたり1〜2時間で実施した。インタビュー音源を書き起こした後、MAXQDAを用いてコーディングし分析を行った。
調査の結果、第一に両地域の位置情報共有機能を持つソーシャルメディアの利用状況について、日本の若者は主にInstagram、Zenly、Whoo、BeRealを使用しており、イギリスではInstagram、WhatsApp、SnapChat、Life360が多く利用される傾向にあった。また、利用状況の共通点として、日本とイギリスどちらの場合においても共有相手は友人が最も多く、その次に恋人や家族と共有していたことが明らかになった。他方で各地域の特徴として、日本の若者は位置情報共有機能を持つソーシャルメディアを友人関係の強化や社交を目的に利用し、自己開示の手段として友人との信頼関係構築に意義を見出すため利用していた。イギリスでは機能性を重視し、待ち合わせの際や安否確認のために利用することが多く、親密関係におけるコントロールと支配の手段となる可能性を懸念する声が聞かれた。以上のことから、友人間の位置情報共有について日本では親密度を深めていくツールの1つとして用いられているが、イギリスでは、親密関係の結果や副産物として捉えていることが明らかになった。
第二にプライバシー意識の違いについて、藤田・鈴木(2023)の研究と同様の結果が得られ、社会全体の治安環境や情報提供に対する警戒心の違いからイギリスの若者と比べて日本の若者は位置情報提供に対する抵抗感が低く、比較的プライバシーに対する意識も低いことが明らかになった。その理由としてイギリスでは幼少期からプライバシーに関する教育が行われていることや、近年の企業・政府からの監視されることへの社会的な緊張感の高まりから違いが生じていることが示唆された。さらに、Haffnerほか(2018)では女性の方が位置情報を開示する頻度が高く、プライバシー意識も比較的低いとされていたが、本研究では、女性の回答では安全面が特に強調されている傾向が見られた。以上のことから、日本は友人関係の強化や社交を目的として使用される一方、イギリスではあくまで機能として用いる傾向が見られた。また日本とイギリスでは位置情報共有機能を持つソーシャルメディア利用の仕方や意義が異なっていることが明らかになった。
本研究の新規性として、同じ機能を持つソーシャルメディア・サービスでも、コミュニティ・地域によって文化や街の安全性などの理由から使い方が異なることや、プライバシー・パラドックスに関して、居住地によって社会情勢や教育といった要因から、その有無や度合いが異なることが示唆された。本研究の限界として、サンプル数や調査方法に制約があるため、本研究の結果の一般化はできず、今後の研究で検討を行う必要があるだろう。
今回の読書会で寄せられたすべてのコメントやアドバイスに感謝申し上げる。今後の研究では、各地域での友人関係の在り方(付き合い方)・文化・社会の状況などといった側面から原因も若者とオンラインプラバシーをテーマにして考察していきたい。