REPORTS

2024年度第2回BAIRAL研究会
「生体模倣ロボットの開発およびヒトの構成論的理解〜ロボットを通して人間に迫る〜」報告

大月希望(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)

・日時:2024年08月06日(火)18:00-19:30
・場所:対面(東京大学浅野キャンパス理学部3号館327)およびZoomによるハイブリッド開催
・言語:日本語
・ゲストスピーカー:三木 章寛(東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 博士課程)
・モデレーター:大月希望(B’AIリサーチ・アシスタント)
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2024年08月06日(火)、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の2024年度第2回がハイブリッドで開催された。今回は、東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 博士課程の三木章寛さんをお招きし、「生体模倣ロボットの開発およびヒトの構成論的理解 〜ロボットを通して人間に迫る〜」というテーマでお話しいただいた。

三木さんは、従来のロボット工学の枠を超えてロボットを人間理解のためのツールとして活用する視点から、生体模倣ロボットの設計と解析を通じて人間の感覚や身体の仕組み、感覚器の情報処理のメカニズムを明らかにしようとしている。

人間の感覚器の種類は多岐にわたり、互いに補完し合って五感や体性感覚や内臓感覚などを生成する。関節にも同様に感覚器が存在し、複雑な感覚を生み出す。三木さんは柔らかい関節の開発に取り組み、従来のロボットのベアリングやギアとは異なるより人間に近い関節を作成した。そこに小型のセンサーを多数埋め込むことで、人間の関節における多数の感覚器を模倣した。この関節を実際に動かしてセンサーから得られた情報を元に、機械学習を用いて関節の角度を予測する実験を行ったところ、高い精度で予測できることが示された。

さらに、個々のセンサーの情報は無意味でも、多数集まることで全体としてわかることがあり、そこにロボットとは異なる人間らしさが見出された。また、開発された関節は、一部のセンサーが故障しても全体としての機能は維持されるという冗長性を持ち、これは一箇所が故障すると停止したり誤作動を起こすロボットに対し、多少の怪我では感覚を失わない人間に近い。

今後の展望として、人間の感覚が体中に張り巡らされていることを踏まえ、開発した関節に皮膚や筋肉といった要素を加えた身体全体の情報システムとして研究を発展させることを目指している。具体的にはスポーツ医学やリハビリへの応用や、生物の進化における皮膚の硬さと感覚器の変化の再現・解明なども考えているとのことであった。

ディスカッションでは、人文科学分野との接続の可能性や、人間らしいロボットを作る意味について意見が交わされた。歴史学的なアプローチによる感覚研究では、過去の文献や資料を分析し人々の感覚体験がどのように変化してきたかを研究するが、例えばロボットに現代と過去の衣服を着せて感じ方の違いを分析する、気候の違いを反映するといった接続の可能性が示唆された。現在から未来への視点としては、少子高齢化に伴い地域の無形文化の担い手が減少していることから、師弟関係で伝わってきたような感覚的伝承をロボットを通じて定量化できるかについても話題に上がった。

人間らしいロボットに関しては、感覚や関節の単体だけであれば必ずしも人間の形をしている必要はないかもしれないが、この研究においては身体の全体的な繋がりも考慮しており、その意味では機能だけでなく全体として人間らしいロボットを作ることに意味があることが示された。また、分野における一般論として、ロボットに求める役割として人間の代わりに力仕事を行うことが期待されている場合には、男性の骨格データを参考にロボットが設計され名前も男性的であり、他方でソーシャルインタラクションロボットでは女性らしいロボットもあることが語られた。、ロボットの機能・役割とジェンダーイメージの関係、さらには感覚受容における性差をふまえたロボット開発などについても検討の余地があるだろう。