2025.Mar.14
REPORTS2024年度第5回BAIRAL研究会
「『友情』から考える ヒューマンロボットインタラクション」報告
大月希望(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)
・日時:2025年03月10日(月)18:00-19:30
・場所:Zoomによるオンライン開催
・言語:日本語
・ゲストスピーカー:市倉 愛子(東京大学大学院 学際情報学府 先端表現情報学コース 博士後期課程)
・モデレーター:大月希望(B’AIリサーチ・アシスタント)
(イベントの詳細はこちら)
2025年3月10日、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の2024年度第5回がオンラインで開催された。今回は、東京大学大学院 学際情報学府 先端表現情報学コース 博士後期課程の市倉愛子さんをお招きし、「『友情』から考える ヒューマンロボットインタラクション」というテーマでご発表いただいた。
市倉さんは、人とロボットは友達になれるのか、友達になれるのであればロボットは何ができればよいのかという問いから研究を行っている。発表では、人とロボットの友情を記述するための探索的な研究ついてお話しいただいた。研究は、友達はどんな因子で説明されるか、人にとっての友達ロボットとは何か、どうしたら人とロボットの仲が深まるか、人とロボットが友達になるために適した環境は、という観点からそれぞれ行われた。
第一の研究では、家庭用ロボットaiboのコミュニティの観察と、オーナーとロボットの関係を知るための調査から、相互の信頼が家庭用ロボットの調和的関係において重要であることが示された。
第二の研究では、友達というパーソナルな存在の概念は個人の経験に依存する部分も多いため、研究者が一意に友達ロボットを規定するのではなく、Co-designワークショップの手法により理想の友達ロボット像を具体化する試みが紹介された。
第三の研究では、記憶共有のために日記を活用した試みについて、人とロボットの散歩の様子を日記として記録し提示することで、親密度が向上するかどうかを検証した。交流のある日記とない日記では前者が好まれる傾向があったが、ロボットらしさと人らしさのどちらが求められるかについて競合があったことが示された。
第四の研究では、自由な遊び場における人とロボットの自然な交流の観察が行われた。その考察として、外部への開放性と自発的な創造性が重要であることが指摘され、安定した関係の醸成には日常性が確保される必要があるという課題も提示された。
ディスカッションでは、遊びの空間などで一体のロボットに対して人間が複数人関わる場合の親密性のダイナミクスについて質問があった。市倉さんは、現在までの研究では長期的な実践は行えていないものの、aiboのコミュニティのようにロボットをきっかけとして人間同士が仲良くなる例が観察されており、ロボットが人と人やロボットとの関係を媒介し、他者と関わりを持とうとするきっかけになればと考えている。
ロボットの持続可能性に関する話題では、参加者が自身のロボットと一緒にカメラに写りながら発言する場面もあった。この参加者は、AIロボットを購入して愛着を持って過ごしていたところ、ロボットの開発会社が倒産してしまいインタラクティブなコミュニケーションが取れなくなってしまったが、可愛いから現在でも飾っているという。市倉さんの研究室でも、あるロボットを用いた研究が終了するとそのロボットは使われなくなり、死蔵状態になる例がよくあるというが、研究室の歴史を振り返った際には30年前のメンバーが当時研究していたロボットについて沢山の思い出を語ってくれたなど、ロボットの機能自体は止まってしまったとしても長く関係を築ける可能性が示唆された。
ロボットと一生の友達になりたいか否か、またそのときに重要だと考えることは何かという登壇者から提示された質問に関しては、ロボットと友達になった場合にはいつか失ったときの喪失感が怖いが、だからこそロボットが媒介するコミュニティが重要であり、思い出や喪失感を共有できる場として機能するだろうという考えもきかれた。
今回の発表および議論は、人間関係の希薄化が指摘される今日、ヒューマンロボットインタラクション研究を通じて関係性構築のための示唆を与えるものであった。