REPORTS

Steph Wright氏講演会
「なぜ信頼でき、倫理的で、インクルーシブなAIが重要なのか」報告

Clarise ONG Chia Yee(東京大学総合文化研究科 修士課程)

・日時:2024年11月21日(木)18:30-20:00(日本時間)
・形式:対面のみ
・会場:東京大学本郷キャンパス工学部2号館9F 92B教室
・使用言語:英語(通訳なし)
(イベントの詳細は こちら

2024年11月21日の夜、私たちはSteph Wright氏をお迎えし、「スコットランドが目指す信頼性が高く倫理的かつ包括的なAIの推進」と、それが社会に与える影響についての洞察に満ちた講演を拝聴する貴重な機会を得た。

「持続可能な開発目標(SDGs)」や「多様性」といったバズワードは、しばしば十分な考慮なしにさまざまな取り組みを促進するために使われることが多いが、Wright氏はスコットランドのAI戦略がこれらの目標を真に達成しようとしていることを強調する。彼女は、スコットランドを構成する多様な文化やコミュニティのすべての人々を包摂することの重要性を説いた。この目標を実現するためには、AIがどのように、いつ、なぜ使われるのかに対する人々の信頼を築き、AIの応用に自信を持たせ、AI利用に伴う固有のリスクを管理・軽減するための強固なガイドラインに依拠できることが必要であるとWright氏は力説した。

Scottish AI Allianceのリーダーとして、Wright氏は、こうしたビジョンを実現するために彼女の組織が主導しているさまざまな取り組みについて説明した。その中でも特に注目すべきは、「AIプレイブック」と呼ばれるリソースハブである。このプレイブックは、スコットランド内の企業や団体に向けて設計され、責任あるAIの導入と開発に関するベストプラクティスや倫理的アプローチを提供している。Wright氏は、このプレイブックが「技術企業と日常的なビジネスとの間に存在するAIギャップ」といった、あまり触れられることのないトピックにどのように対応しているかを説明した。例えば、技術業界はしばしば「AIエコーチェンバー」の中で活動しており、そのため多くの企業がAIに取り組む意欲を示さず、外部からの圧力があってもAI導入に興味を示さない現状を見過ごしていることを指摘した。

Wright氏は、コミュニティの関与と個人の参加がScottish AI Allianceの実践の基盤であることを強調した。彼女は、非技術系の企業やスコットランドの人々にAIと関わるよう促すために、関係構築やアウトリーチプログラムを活用する試みを紹介した。これらの取り組みを通じて、スコットランドの人々が実際に何を考え、何を必要としているかを理解するための貴重な機会が提供されている。例えば、AIリテラシーの公共プログラムを多国籍テクノロジー企業ではなく国家主導で提供するという、英国初(ひいては世界初)の試みのようなスコットランドの先進的な取り組みの中でも、参加者やコミュニティとのインターアクションは最重要であるという。

また、Wright氏はAIに内在する既存の権力構造の理解の重要性を再認識させながら、技術が中立的ではないことを繰り返し強調した。その指摘によると、製品の構想や開発の段階だけでなく、発売以降も含めた技術製品のライフサイクル全体を通じて多様なチームによる抑制と均衡を維持することが重要であり、さらに、知識と教育の役割を強調し、AIの仕組みを広く理解することが、人々が正確な意見を提供し、その利用について情報に基づいた判断を下せるようにするための鍵である。彼女は、英国のBrexitの経験を引き合いに出し、誤情報と虚偽が広まり、多くの一般有権者が自分たちの利益に反する投票をしてしまったことを指摘した。その結果、現在の英国市民はもちろん、将来の世代までEU加盟国としての特典を失ってしまったのである。

講演の最後に、Wright氏は、AI導入に関する一般的な誤解、すなわち「AIを採用しなければ取り残される」という恐怖について説明した。彼女はこのような考え方が間違っていると主張し、AIの導入に関する意思決定を、企業が煽る恐怖ではなく、生活を本当に向上させる可能性に基づいて行うべきだと提言した。最後に、Wright氏は「AIを8人の億万長者のためではなく、80億人のために活用しましょう」という力強い言葉で講演をしめくくり、聴衆をAIやテクノロジー開発における権力構造についての深い思惟へと誘った。