REPORTS

2025年度第1回BAIRAL研究会
「見守ることと見守られること:環境デザインが防犯と出会うとき」報告

プリヤ・ム(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)

・日時:2025年6月11日(水)17:00-18:30
・場所:Zoomミーティング(事前申し込み不要)
・言語:英語 
・ゲストスピーカー:Dr. Sihan YANG (東京大学 まちづくり研究室 特任研究員)
・モデレーター:プリヤ・ム(B’AIリサーチ・アシスタント)
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2025年6月11日、2025年度第1回BAIRAL研究会を開催した。今回は、東京大学まちづくり研究室で特任研究員を務めるDr. Sihan YANGをお招きし、「見守ることと見守られること:環境デザインが防犯と出会うとき」というテーマでご講演いただいた。

ヤン氏は、防犯環境設計(CPTED)とスマート監視技術に関する研究成果を発表した。ヤン氏は都市工学の博士号を持ち、都市計画と地域レベルでの犯罪予防の交差点に注目している。講演では、ジェーン・ジェイコブスの「街路の目」や、オスカー・ニューマンの「防御的空間」などの理論的背景を紹介し、監視・アクセス制御・領域性など6つのCPTED原則の発展を解説した。その後、GISクライム・マッピングやAIによる監視技術など、スマートシティの文脈における最新の防犯技術について言及した。

なかでも、兵庫県加古川市の事例が注目された。同市はかつて犯罪率が高く、2017年以降「みまもりカメラ」を1,500台以上設置し、全住宅地域をカバーした。これらのカメラはBluetoothタグを検出し、認知症高齢者や児童の位置情報を家族に通知する機能を備えており、市民の安全と信頼を高めている。

ヤン氏は市内の中心部、郊外、住宅街の3地区を対象に現地調査とアンケートを実施した。その結果、設置カメラの密度が高くても犯罪率や安全感には差があり、都市環境と地域のつながりが犯罪抑止に大きく影響することが示された。住民は監視技術を高く受け入れており、その背景には行政の透明性と、希薄になりつつある地域関係への不安から技術に依存する傾向があると分析された。

また、日本特有の文化的要素である、表札の設置や近隣関係の可視化が、CPTEDの概念と自然に結びついていることも指摘された。

最後に、ヤン氏は監視技術の倫理的課題(プライバシー、差別、依存)にも言及し、真の安全な都市には、技術だけでなく人間の関与と包摂的な都市デザインのバランスが不可欠であると強調した。彼女の結論は「デジタルの目と人の目は、互いを補完すべきで、置き換えてはならない」というものだった。