2021.Aug.06
REPORTS第1回B’AI Book Club 報告
Yarden Katz, Artificial Whiteness: Politics and Ideology in Artificial Intelligence (2020)
加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)
・日時・場所:2021年5月12日(水)17時半~19時 @Zoom
・言語:英語(ディスカッションのみ:日本語)
・書籍:Yarden Katz. (2020). Artificial Whiteness: Politics and Ideology in Artificial Intelligence. New York: Columbia University Press.
・評者:矢口祐人(東京大学大学院情報学環教授/B’AIエグゼクティブ・マネージャー)
2日、B’AI Global Forumのプロジェクトメンバーとその関係者が参加する書評会「B’AI Book Club」の第一回が開催された。日本にはAIをはじめとする情報テクノロジーとジェンダーやマイノリティの関係を扱った文献が極端に少ないため、書評会という形式でプロジェクトメンバーが海外の文献を紹介・議論し、この分野の最先端の動向をカバーすることがB’AI Book Clubの目的である。初回となる今回は、矢口祐人教授がYarden KatzのArtificial Whiteness: Politics and Ideology in Artificial Intelligence (Columbia University Press, 2020)を紹介した。この本は、認知科学を専門とする著者がAIと白人主義の結びつきやその帰結について書いたものである。
Artificial Whitenessに対する参加者の大まかな感想は、AIとWhitenessの問題がわかりやすくまとめられているが、関連領域の専門的な議論があまりにも不足しているというものだった。本書は理論的・技術的な話が少ないため、背景知識を持たない初学者にもわかりやすく書かれているという利点を持つが、その一方で研究テーマとの関連が深いWhiteness研究や科学技術社会論などの先行研究は十分にレビューできておらず、学問的に位置づけるのが難しい。
これをどう評価するかは人によって分かれるだろうが、本書には決定的な欠点もある。それは、この本の記述内容の偏りである。矢口教授は、この本の内容がアメリカにおけるAIとWhitenessの記述に極端に偏っており、他の国や人種とAIの関連についてほぼ言及していない点を問題だと指摘する。他の参加者もこの点には同意しており、本書ではAIテクノロジーと白人主義の結びつきが批判されている一方で、白人主義(アメリカ)の事例に固執しすぎることで、皮肉にも著者自身が西洋の支配構造と結びついてしまっている点が欠点として挙げられる。
こうした本書に対するB’AIのメンバーの評価から、論点は「ではこの本はどのような文脈で読まれるべきか」という点に移っていった。本書がわかりやすさに重きを置いているという点を踏まえ、Artificial Whitenessは学部の授業の教科書やAIに関する議論の出発点、またコンピュータ系の研究者に人文社会科学系の問題意識をわかりやすく紹介するために使えるという意見が出た。しかし矢口教授は、Artificial Whitenessの推薦文に人文社会科学系の著名な研究者が名を連ねていることから、出版側はAIの技術者というよりも、人文社会科学系の専門家や学習者を対象読者として想定しているだろうと指摘する。人文社会科学系を専門としない人々がこの本の内容をどのように受け取るかという点は、本書の立ち位置にも深く関わる重要な論点だといえるだろう。