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2021年度第2回BAIRAL研究会「AIの利用における倫理的課題について」報告

Lim Dongwoo(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年6月3日(木)18:30~20:00 @Zoom
・言語:日本語
・モデレーター:Lim Dongwoo
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2021年 6月3日(木)、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の第2回目がZoomで開催された。今回は理化学研究所の荒井ひろみさんをお招きし、AIの利用における倫理的課題についてお話を伺った。荒井さんの発表に続いて質疑応答やディスカッションも行われた。

 

荒井さんは、一見、個人情報が削除されたように見える情報も、いくつかをまとめて見れば、個人を特定できるようになる場合が多いことを指摘した。また、このような弱点を狙った攻撃が実際に多く行われており、これに対する対策が開発されていると述べた。またSEO(search engine optimization)が巧みに悪用された場合、そのキーワードが本当に話題になっているのかそれとも捏造されたものか分かりにくいとも述べた。一方、AIを活用して平等を達成することに関しても、平等を計測することも難しいが、その前に平等が何であるかを定義するのは非常に難しいと述べた。例えば、平均が同じものが平等なのか、それとも分布が同じものが平等なのか、状況によって異なる可能性がある。また、分析のためにモデルを単純化すると、ジェンダーなどの要素を無視することになるなど、現場で経験する問題点を具体的に説明いただいた。最近は「green washing」のような「fair washing (うわべだけ公正の確保に熱心にみせること)」が課題になっているという話も興味を引いた。

 

その後、質疑応答とディスカッションが行われた。そこでは、日本のプライバシーに関する法の処罰、日本企業の個人情報保護、文理融合的な研究の難しい点、GDPR(General Data Protection Regulation)などが話題に上った。最近、ラインやメルカリなどで情報流出問題があったが、日本のプライバシー関連法の処罰が弱いのではないかという質問に、荒井さんは「そうではない。むしろ厳しいので摘発できた」と説明した。ちなみに企業の場合、公正を追求する過程で「現場を知らない人のせいでユーザーの便宜性が悪くなる」という不満もありうるので、バランスをよく取ることも重要だと付け加えた。またAI研究に言語学など人文社会系列の専門家の助けが必要な場合も多いが、このような文理融合的な研究の場合、互いに使用する専門用語が違うため理解するのに時間がかかることもあると話した。最後に、EU一般データ保護規則であるGDPRに関しては、最近個人情報保護のための規定が強化され、例えば顔認識のための顔写真の場合、使用できるデータがほとんどなくなっている状況だと説明された。

 

全体として、AI研究が発展すればするほど倫理的問題も深刻になるはずなので、理論的かつ実践的な側面で多様な努力が伴われるべきである、と考えさせられた研究会であった。