REPORTS

第6回B’AI Book Club報告
Safiya Umoja Noble, Algorithms of Oppression: How Search Engines Reinforce Racism (2018)

加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年11月30日(火)17時半~19時 @Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・書籍:Safiya Umoja Noble. (2018). Algorithms of Oppression: How Search Engines Reinforce Racism. New York: New York University Press.
・評者:加藤大樹

2021年11月30日、B’AI Global Forumのプロジェクトメンバーとその関係者が参加する書評会「B’AI Book Club」の第6回が開催された。今回は、B’AI Global Forumリサーチアシスタントの加藤大樹がSafiya Umoja Nobleの『Algorithms of Oppression: How Search Engines Reinforce Racism』(New York University Press, 2018)の紹介をおこなった。

 

この本は、Googleのような検索エンジンで「black girls」などと検索するとトップページに問題のある(性的な)表象が出てくる現象について、Googleで働いた経験もある著者が、その背後に存在するアルゴリズムや商業的誘因などと絡めながら論じたものである。不可視化されがちな検索エンジンの問題に光を当て、それに対する強い制度的な介入の必要性を主張する本書は、発売後すぐに話題を呼び、これまでに数々の賞を受賞している。

 

書評会でまず話題に上がったのは、本書が及ぼした社会的なインパクトの大きさである。著者は本書の中で、マイノリティに関するキーワードでGoogle検索をするといかに偏った表象がトップページに出てくるかを繰り返し述べているが、現在、例えばGoogleで「black girls」と検索しても問題のある画像やサイトはあまり出てこない。こうした状況の改善は本書の影響によるところが大きいだろう。ただ完全に問題がなくなったわけではなく、例えば「Asian girls」で検索すると性的な画像がトップに表示されるなど、Googleの利用地域や検索対象となる社会集団によってはまだまだ課題が残されている。このようにまだ道半ばではあるものの、着実に状況の改善に向かっていることもまた事実であり、社会の差別構造の是正に向けて希望を与えてくれる本であるということは言えるだろう。

 

一方で本書を学術書として読んだ場合(本書は著者の博士論文が元になっている)、本書の記述は検索エンジンの技術やその提供者に関するものがメインであり、研究の射程が狭くて物足りないという意見も参加者から出た。検索エンジンにおける表象だけでなく、利用者側の認知プロセスなどにも焦点を当て、技術と社会の相互作用によって差別構造が維持されるメカニズムを描き出すことができれば、学術研究としてより包括的なモデルを提示できたかもしれない。

 

このように、見方によって本書に対する評価は異なるかもしれないが、研究者として社会課題の改善に取り組む我々にとって、本書が様々な示唆や刺激を与えてくれる重要な書籍であることは間違いない。