REPORTS

第5回B’AI Book Club報告
Meredith Broussard, Artificial Unintelligence: How Computers Misunderstand the World (2018)

金佳榮(B’AIグローバル・フォーラム特任研究員)

・日時・場所:2021年10月26日(火)17時半~19時 @Zoomミーティング
・書籍:Meredith Broussard (2018). Artificial Unintelligence: How Computers Misunderstand the World. Cambridge, MA: The MIT Press.
・使用言語:日本語
・評者:金佳榮

2021年10月26日、B’AIグローバル・フォーラムの書評会「B’AI Book Club」の第5回が開催され、特任研究員の金佳榮がMeredith Broussard の著書『Artificial Unintelligence: How Computers Misunderstand the World』(The MIT Press, 2018)を紹介した。

本書は、私たちの生活の隅々までAIが浸透している今日、複雑な社会問題についてもテクノロジーで解決できるかのように信じる技術至上主義やそのような信仰が強く根付いているテック文化への反対論として位置付けることができる。

コンピューター・サイエンティストでデータ・ジャーナリストの著者は、現場での実践活動を通じて得た知見と洞察から、「アルゴリズムの客観性や公正性とは神話にすぎず、テクノロジーにできることには限界がある」ことを常に念頭におかなければならないと主張する。その根拠として、貧しい学校が標準テストでいい成績を取ることができない構造的な理由を明らかにした自身の調査結果を紹介し、このような問題はAIには解決できないと力説したり、機械学習の仕組みを詳しく説明することで機械が本当に知覚力を持って学んでいるわけではないと示した上、単なる数学的計算を通じて出された予測にどれだけの落とし穴が存在し得るかを指摘する。また、より安全な未来社会をつくるAI技術の代表例ともされてきた自動運転車については、倫理的判断が要求される場面にそれは全く対応できないと批判を加えている。

しかしながら、著者は、テクノロジーにできないことを把握しようとする理由はAI時代を悲観するためではなく、むしろそうすることでテクノロジーにできることがより明確に見えてくるからであると強調する。本の後半では、人間とコンピューターのコラボレーションによる有意義な成果が期待できる分野の例としてコンピュテーショナル・ジャーナリズムを挙げ、2016年のアメリカ大統領選挙の際に選挙資金の流れを分析し可視化するソフトウェアプログラムを構築してジャーナリストたちに有益なデータを提供したプロジェクトを紹介している。本書はこのようにして、より良い未来のために採用すべき最も適切なテクノロジーへの態度を提示しているのである。

発表に続くディスカッションでは、主にこの本の使い方について議論が交わされた。機械学習やアルゴリズムのことについての知識がない人にも分かりやすい書き方と構成、そして具体的な事例の豊富さなどが評価された一方で、まさにその理由から大学院で教科書として使うには無理があるとの意見もあった。そして、本の中で頻繁に出てくる「technochauvinism(技術至上主義)」や「General AI / Narrow AI(汎用型AI /特化型AI)」などの言葉について、それが著者独自の表現なのか、学問的な語源を持つテクニカル・タームとして理解して良いのかが曖昧で用語の定義の面で物足りなさを感じたという意見もあり、これもこの本を教科書として使いにくい理由の一つとして挙げられた。

ただ、コンピューター・サイエンティストでありながらジャーナリストでもあるという著者のバックグラウンドは、やはり彼女の主張に大きな説得力を持たせる。ビジネス観点からではなく社会への貢献という観点からジャーナリズムにおけるAIの利活用について論じているので、B’AIグローバル・フォーラムのミッションとも重なる部分が多く、その意味で示唆に富む本であることは間違いないといえる。