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Lulu Shi氏講演会「The Future(s) of Unpaid Work: How Susceptible Do Experts from Different Backgrounds Think the Domestic Sphere Is to Automation?」報告

ノ・ジュウン(2022年度B’AI特任研究員)

・日時:2022年10月17日(月)17:00~18:30(日本時間)
・場所:ハイブリッド(Zoomミーティング&東京大学Beyond AI研究推進機構 本郷拠点)
・言語:英語(通訳なし)
・講演者:Lulu Shi(オックスフォード大学 社会学科 ポストドクトラルリサーチャー)
・モデレーター:久野 愛(東京大学大学院情報学環・准教授)
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2022年10月17日、B’AIグローバル・フォーラムでは東京大学Beyond AI研究推進機構の後援でLulu Shi氏講演会「The Future(s) of Unpaid Work: How Susceptible Do Experts from Different Backgrounds Think the Domestic Sphere Is to Automation?」を開催した。Lulu Shi氏は社会学者であり、英・オックスフォード大学のポストドクトラルリサーチャーとしてプロジェクト「DomesticAI」に取り組んでいる。「DomesticAI」は、オックスフォード大学と日本の大学・研究機関等による共同プロジェクトである。このプロジェクトの目的は、テクノロジーが無償のケア労働をどのように変えることができるかを理解することである。無償のケア労働には、料理、掃除、洗濯などの家事労働と、育児や看護・高齢者介護などの労働が含まれる。

国家、ジェンダー、専門分野など、予測する人の立場によって将来技術の予測は異なる結果をもたらす可能性がある。このプロジェクトでは日英の専門家(学者、技術者、財界人)に家事労働の自動化がどのくらいすすむのか、5年後、10年後予測を出してデルファイ調査を行った。調査では、各専門分野から、日本で36人、イギリスで29人、合計65人の回答をサンプルにした。

調査対象の専門家は、現在無償の家事労働に費やしている時間の平均39%が今後10年以内に自動化され、27%が5年以内に自動化される可能性があると答えた。国や性別による予測の違いについては、イギリスでは、男性の専門家が女性の専門家よりも家事労働の自動化の可能性を高く予測していた。しかし、日本では、状況は逆であった。日本の男性専門家は、女性専門家より自動化の可能性を低く予測していた。最後に、専門家の属する分野別に比較すると、学術・財界の専門家は、技術開発分野の専門家よりも、自動化の可能性について平均して高く予測していることが明らかになった。

この調査からわかることをまとめると、無償労働は、今後5年間で27%、10年間で39%の自動化が予測されること、 そしてこの予測は、国によって、また予測する専門家のジェンダーや専門分野などのバックグラウンドによって異なることである。Shi氏は、このプロジェクトにより無償の家事労働が労働の自動化の研究に含まれるようになるのが研究意義の一つであると述べる。

講演後の質疑応答では、「自動化」のインプリケーションについての質問があった。Shi氏はこの質問に対して、自動化が良いとも悪いとも言えなく、それは使い方によると答えた。また、国と専門分野という二つの要因の間での関連性はないか、という質問に対して、Shi氏は特に特異性は見いだせなかったという。調査対象として日本とイギリスを選んだ理由を聞く質問もあったが、これに対して彼女は日英両国とも民主主義国家であり、技術的に高度に発達している国である点で似ている一方、文化や無償労働に対する考え方、労働市場の構成などにおいては両国が異なる面がある点を理由として挙げた。