REPORTS

2022年度第3回BAIRAL研究会
「ビジネス領域における社会科学研究の活用」報告

加藤大樹(B’AIグローバル・フォーラム リサーチ・アシスタント)

・日時:2022年6月29日(水)17時~18時半
・場所:Zoomミーティング
・言語:日本語
・ゲストスピーカー:前嶋直樹氏(Sansan株式会社)
・モデレーター:加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)
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2022年6月29日(水)、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の2022年度第3回がオンラインで開催された。今回は、Sansan株式会社で研究開発に従事し、社会ネットワーク分析に関して高い専門性を有している前嶋直樹氏をゲストスピーカーとしてお迎えした。本研究会のプレゼンテーション・パートでは、前嶋氏の勤めている会社の概要、社会ネットワーク分析の基礎的な概念や近年の潮流、そしてビジネスの商品開発にあたって社会ネットワーク分析がどのように活用されているのかについて説明があった。その後、参加者を交えて関連する話題について質疑応答をおこなった。

Sansan株式会社は「出会いからイノベーションを生み出す」ということを目標に据えて、名刺交換に基づく交流データベースを企業向けに提供するなど、様々なサービスを展開している。今回のプレゼンテーションでは、前嶋氏から、主にSansan株式会社の商品の根底にある社会ネットワーク分析の基礎的な知識・知見を紹介していただいた。社会ネットワーク分析とは、個人間・集団間の関係(社会ネットワーク)のパターンを調査し、そうしたつながりの原因や結果を分析する科学的な分析手法のことを指す。例えば、社会ネットワーク分析で論じられている知見のうち、よく知られているものとして、転職する際には異なる社会集団を橋渡ししうる軽い知り合いから有益な情報が手に入りやすいというものがある。この現象は「弱い紐帯の強さ」として知られている。また近年では、研究者たちは既存の社会関係を分析するだけでなく、社会ネットワークのデザイン形成に介入する実験的な研究もおこなってきた。前嶋氏は、そうした社会ネットワーク分析の理論や知見をビジネスの現場に応用することで、従業員の適性を分析したり、チームビルディングを支援したり、異なる分野の従業員たちの出会いを促進したりするサービスを開発してきた。

前嶋氏による導入に続いて、参加者間で様々な話題、例えば社会ネットワーク分析の分析手順のより詳細な検討や、社会ネットワーク分析を活用することでどのような社会課題を解決しうるか、などについて議論がおこなわれた。例えばある参加者からは、「女性エンジニアのつながりを支援するために、もしくは、あるコミュニティにおけるジェンダー・ギャップを是正するために、社会ネットワーク分析に何ができるのか?」という質問が飛んだ。それに対して前嶋氏からは、この問題に対して何か答えを提示するのは難しいとしつつも、それは間違いなく重要な問題であり、社会ネットワーク分析によって解決できる余地はあるという応答があった。前嶋氏からは、「集団のメンバーの多様性」と「そのメンバー間のつながりの多様性」は区別でき、私たちは前者ばかりではなく後者にも目を向ける必要がある、という示唆に富んだ考えも共有された。

本研究会を通じて、社会ネットワーク分析における様々な概念や物事の捉え方、そしてそれらが秘めている可能性を知ることができた。まだ様々な論争や不確かな知見も数多くあるものの、このビッグデータの時代において、この研究分野はより急速に発展・拡大し、様々な社会課題解決のために応用されうるという大きなポテンシャルを持っている。