2024.Feb.16
REPORTS第26回 B’AI Book Club 報告(※研究発表)
「10代・20代女性におけるAI/アルゴリズムとジェンダー不平等についての意識調査」
山本恭輔(東京大学大学院学際情報学府 博士課程)
・日時:2024年1月23日(火)13:00-14:30
・場所:B’AIオフィス&Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・報告:「10代・20代女性におけるAI/アルゴリズムとジェンダー不平等についての意識調査」
・報告者:加藤穂香(国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科 博士後期課程)
山本恭輔(東京大学大学院学際情報学府 博士課程)
毛雲帆(東京大学大学院学際情報学府 修士課程)
渡邊莉子(慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻 修士課程)
2024年1月23日(火)、B’AI Global Forumのプロジェクトメンバーとその関係者が参加する書評会「B’AI Book Club」の第26回がオンラインと対面も併用で開催された。今回の書評会では、B’AI Global Forumの研究プロジェクトの一つである「AIアルゴリズムとジェンダー不平等」研究グループのメンバーによる研究の中間報告が行われた。
本研究は、日常生活で使用するあらゆるデジタルテクノロジーに人工知能(以下AI)やアルゴリズムが至る所に埋め込まれている現代において、そのデジタルテクノロジーの主な使い手のひとつの集団である若い女性たち(18歳〜29歳)が、自らの認識や選択への影響をどのように捉えているかを分析することを通して、AI/アルゴリズムとジェンダー不平等の関係性について明らかにすることを目的とする。特に、(1)若い女性たちと「レコメンド機能」との関係による「自信」「自尊心」「自己評価」などの毀損状況について、(2)若い女性たちによる「自己管理アプリ」への依存による価値観の変容と、アプリ(AI/アルゴリズム)による若い女性たちの生/性の管理=制御についての実態を調査するために、オンラインでの質問紙調査と、インタビュー調査を実施した。研究の第一段階として、利用実態を大まかに把握すべく選択式と自由記述式の質問紙調査をオンラインフォーム経由で実施し、その結果を踏まえて第二段階として20名の協力者に対面ないしオンラインでデプス・インタビュー調査を実施した。
現中間報告段階における暫定的な結論としては,以下の三つに論点をまとめられる。第一に,広告・レコメンド機能とそこに埋め込まれたAI/アルゴリズムに対する意識についてである。インタビュー協力者たちは、過去の検索履歴やデータの入力に基づいて「興味に近いコンテンツが表示されること」に利便性を感じる一方で,個人情報が収集されたり,悪用されたりすることへの危機意識を持っていた。しかし抵抗する手段は限られていると認識しており,ある程度は「仕方がない」と受け入れざるを得ない状況があった。中には,必要以上に情報が収集されないよう自ら設定を管理したり,可能な限り抵抗したりしようとする人も見られた。
第二に,生理管理アプリによるユーザーのデータ取得に対する意識の低さが挙げられる。生理管理アプリは,身体の状況を客観的なデータとして可視化することを通して,利用者の生活を指導・支援している。これらのツールとの向き合い方については,①データから身体の状況を説明しようとする,②失望や困惑、不安を感じる,③無頓着で単なる記録として認識の3パターンに大きく分かれた。多くの協力者が,データの入力を通して,個人情報と共に「生理周期」の情報が洩れてしまうリスクがあることを認知していた。しかし,情報の重要性が高くないという理由で流出しても構わないと考え,危機意識をもたない協力者も少なくないことが明らかになった。
第三に,SNS使用とジェンダー規範との関係性についてである。現代のSNS空間においては,芸能人やインフルエンサーたちによって「細くてかわいくて綺麗」な女性像が作られ,飽和状態にある。また,「一般人」でもそうした女性規範に従わざるを得ないような風潮がある。協力者の語りからは,SNSに批判的な態度であったとしても,無意識的にルッキズムに巻き込まれていく様子や,自己責任化されてしまう様子がうかがえた。また,SNSが幼い内から日常に深く入り込む一層若い世代ほど,そうした規範に巻き込まれ,深刻な悪影響を受けているのではないかと懸念する声もあった。
本調査の限界として,基本的に機縁法により協力者を募った調査であったため,研究協力者のデモグラフィーがやや「高学歴」で,「ミドルクラス」,「シスジェンダーの女性」に偏りが出たことは無視できない。そのため,本調査の回答傾向が全体的な社会状況を反映したものであるのか検証できなかった。
報告の後の議論においては,参加者より次のようなことが指摘された。はじめに,レコメンド機能やルッキズムに関することと異なり,生理管理アプリについてデータを収集されていることへの意識が低いことについての理由をどのように解釈するかについてのより一層の分析ないし,さらなる聞き取りが必要でないかということ。続いて,研究協力者等の回答や語りにおいてジェンダーの社会規範が前提化されている点についてどのように議論をしていくべきかということ,そしてそもそも扱っているトピックがどれも明示的にジェンダーや女性性と結びついているものが多いため,同様のAI/アルゴリズムに裏付けされたシステム上で扱われる一見ジェンダーや女性性とは関わりのなさそうな情報に関しての意識調査が必要ではないかという指摘もなされた。特に,広告やレコメンド機能がジェンダー二元論にかなり色濃く回収されていくことが窺える部分について,日本のコンテクストとしてどのように位置づけるべきか,日本国外の研究とも比較しながらどのように議論をしていくべきかについては今後の課題として重要な論点になると考えられる。
このように本会は,AI/アルゴリズムを前提とした日常生活にあふれるあらゆるデジタルテクノロジーがどのようにジェンダー不平等を構造化し維持再生産し続けるか,それらがどのようにユーザーの女性たちの自己認識と結びついているかを語りのデータとともに詳細に検討しながら,今後の研究の可能性について考える実りの多い機会となった。