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第28回 B’AI Book Club 報告:
AIの芸術的使用例と創造的AIの法的議論とともに創造性とAIについて探求する論文

ガリーナ・シンドレイエーバ(東京大学大学院情報学環客員研究員、武蔵大学研究員)

・日時:2024年3月26日(火)13:00-14:30
・場所:ハイブリッド(B'AI オフィス & Zoomミーティング)
・使用言語:英語
・評者:ガリーナ・シンドレイエーバ(東京大学大学院情報学環客員研究員、武蔵大学研究員)
・論文:
Main:
Burk, D. L. (2023). Cheap creativity and what it will do. Georgia Law Review, 57(4), 1669-1712.
Gioti, A. M., Einbond, A. & Born, G. (2023). Composing the Assemblage: Probing Aesthetic and Technical Dimensions of Artistic Creation with Machine Learning. Computer Music Journal, 46(4), pp. 1-43. doi: 10.1162/comj_a_00658
Additional:
Benabdallah, G. et al. (2022). Slanted Speculations: Material Encounters with Algorithmic Bias. In: Designing Interactive Systems Conference (Virtual Event, Australia) (DIS ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, pp. 85–99. https://doi.org/10.1145/3532106.3533449
Donnarumma, M. (2023). Against the Norm: Othering and Otherness in AI Aesthetics. Digital Culture and Society, 8(2), pp. 39-65. doi: 10.14361/dcs-2022-0205

2024年3月23日、第28回 B’AI Book Clubが開催された。これは、B’AIグローバル・フォーラムのプロジェクト・メンバーや関係者を対象に、AIに関する近年の学術文献について議論する定例の書評会である。今回は、ガリーナ・シンドレイエーバ客員研究員が、創造性とAIを取り巻く課題に関するいくつかの論文のレビューをおこなった。

まず、Gioti・Einbond・Bornの論文が紹介された。この論文では、EinbondとGiotiのそれぞれによる、機械学習の手法を取り入れた二つの音楽作品について報告された。著者らは、マテリアル・エンゲージメントやクリティカル・データ研究の理論的枠組みや、オートエスノグラフィーの手法を用い、エージェンシー、オーサーシップ、新規性についての疑問を探った。上記の二つの音楽作品では、作曲と演奏にコンピュータの入力を可能にする機械学習技術が用いられ、その結果、演奏者たちとアルゴリズムとの間に「エージェンシーの踊り」が生まれた。今回の書評会によって、いくつかの重要な課題に焦点が当てられた。第一に、すでに様々な洗練された技術や電子楽器に依存している分野でAIを使用することで、何が新しいのか、またそれらが聴衆の体験をどのように変えるのかを明確に定義することの難しさがある。第二に、エージェンシーおよび生成AIの美学を議論するためには、ここに例示されているような人間と機械のインタラクションの事例を含めることが重要であり、それは、AIによって生成されたものというよりも、むしろ芸術的創造におけるAIの実際の使用をより代表するものかもしれない。さらに、機械学習を用いた西洋中心の音楽に注目が集まっているが、これは西洋中心主義に対抗するための永続的な課題を反映しているということが指摘された。

二つ目に取り上げたBurk 2023は、知的財産と生成AIの問題に焦点を当てた論文である。Burkの主張は、特許のような知的財産制度の意図とは対照的に、生成AIは、安価な再現性という点では大きな変化をもたらさないが、最初の創造という点では大きな変化をもたらし、合成的創造性の時代を到来させるというものである。例えば、医薬品は比較的安価に製造できるが、研究開発(創造)にはコストがかかる。Burkの考えでは、AIによる安価な創造は、独創性よりもむしろ真正性を評価することになる。この論文は、真正性に対する社会的関係の重要性を中心に、書評会に参加したメンバーたちの意義深いコメントを引き出した。

残りの論文(Benabdallah et al., 2022とDonnarumma 2023)は、それぞれ、AIと芸術的な関わりについての事例をさらに示し、芸術目的のための生成AIの使用(Donnarummaの言い回しでは、企業AIの美学)によって永続する不平等についての考察を深める役割を果たした。

総括すると、これらの論文は、芸術や創造に焦点を当てたAIの使用におけるエージェンシー、真正性、不平等の課題について紹介した。