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2021年度第3回BAIRAL研究会「クラウドソース型地理情報とダイバーシティ」報告

加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年6月28日(月)18時~19時30分 @Zoomミーティング
・言語:日本語
・モデレーター:加藤大樹
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2021年6月28日(月)、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の2021年度第3回がオンラインで開催された。今回は奈良女子大学人文科学系研究院の西村雄一郎教授をお招きし、西村先生が調査・研究を進められている「クラウドソース型地理情報」についてご説明いただいた上で、日本における利用状況や公正さやダイバーシティとの関係などについてお話を伺った。西村先生による話題提供の後は、他の参加者も含めて質疑応答やディスカッションをおこなった。

 

クラウドソース型地理情報とは、一般ユーザーの情報入力に基づいてインターネット上で地図を編集する市民参加型の地図編集プロジェクトのことを指す。その代表例は2004年にイギリスで始まったOpenStreetMap(OSM)であり、実は現在よく使われているGoogle Mapsよりも1年早くサービスを開始している。西村先生の発表によると、OSMの利用者は発祥の地であるイギリスやドイツなど西ヨーロッパ地域で多く、また日本にも比較的多くのアクティブ・ユーザーがいる。しかしその利用者数には地域ごとに大きな格差があり、例えば発展途上国とされる国々ではまだまだ地理情報が乏しい国も多く、また日本国内でも、地方ではあまり地図の編集が進んでいない。地図は、災害予測や復興支援等にも活用される人々の日々の生活に欠かせない重要な情報の1つであり、地理情報へのアクセスのしやすさの差は情報格差の一種だといえるだろう。近年、特に若年層の間でこうした地域ごとの地理情報の格差に対する関心が高まっており、格差解消に向けて活動する国際NGOもいくつか存在する。

 

このように、クラウドソース型地理情報は理念としては全ての人々に開かれているが、実態として公正で平等な情報提供を実現しているとは言い難い。地域間での格差以外にも、例えばOSM利用者が男性に大きく偏っていることなどもこれまでの調査で明らかになっている。このように、「民主化」への期待とは裏腹にWeb2.0の技術が既存の格差や権力構造を拡大・再生産する傾向は様々な領域で観察されており、地理情報もその例外ではないということだろう。しかし今回の研究会でも何度か言及されていたが、クラウドソース型地理情報は研究対象としてはかなり新しい領域であり、まだ議論をするのに十分なデータが揃っているとは言えない。これからも利用実態に関するデータを蓄積し、新たな技術と社会の関係について地道に知見を積み上げていく必要があるだろう。