2021.Nov.16
REPORTS久野愛准教授講演会「歴史から読み解く味覚と視覚-消費主義社会の台頭と『エステティクス』の変遷」報告
田中 瑛(B’AIリサーチ・アシスタント)
・日時・場所:2021年5月28日(金)18:00-19:30 @Zoomウェビナー
・言語:日本語
・講演者:久野愛(東京大学大学院情報学環准教授、東京大学卓越研究員、B’AI Global Forum運営チーム)
・コメンテーター:山中俊治(東京大学大学院情報学環教授、東京大学生産技術研究所)
・モデレーター:林香里(東京大学理事・副学長、東京大学大学院情報学環教授、B’AI Global Forumディレクター)
(イベントの詳細はこちら)
2021年5月28日(金)、B’AIグローバル・フォーラムでは准教授、卓越研究員として着任した久野愛先生による講演会を実施した。久野先生は感覚史、技術史、経営史を専門とし、特に20世紀米国を中心に食品の色、味覚、視覚の歴史的研究を進め、デラウェア大学で博士号を取得した。そして、その研究成果は、『Visualizing Taste: How Business Changed the Look of What You Eat』(ハーバード大学出版局)として出版され、国際的に読まれている。今回の講演会では、デザイン界の第一人者として知られる東京大学大学院情報学環・生産技術研究所の山中俊治先生からのコメントに加え、オーディエンスからもチャットで質問を募り、盛況な議論が行われた。
久野先生は、食品の色には社会、文化、技術的な分析視覚があり、「自然な色」「正しい色」が認識論的に構築されたものであることを具体的に説明して下さった。例えば、バナナの色は黄色いという認識がある。これは、19世紀末に商品の標準化と大規模流通が進む中で、赤いバナナは長距離輸送に適していないため、黄色いバナナが大量生産されるようになり、カラー印刷を通じてそれが宣伝されるようになった結果だという。その他にも、肉は赤い方が新鮮であるという認識も、スーパーマーケットで購入客が自分自身で商品を選択するようになったことが背景にあり、茶色い肉を避けて購入するため、ゼネラル・エレクトリック社の電球など赤く見せる技術が発達したのだという。すなわち、「自然な色」は人工的に作られた色が自然なものとして受容された結果でもあると言える。久野先生は視覚的に食品をアピールする背景には、ジェンダー化された視覚環境などがあることも説明した。以上は単に技術の発展の話には留まらない。資本主義社会の拡大において感覚的認識(エステティクス)が重視される状況を、久野先生は「エステティック・キャピタリズム」と呼び、今後は都市空間の変容がその構成にどのように影響しているのかを明らかにしていく見通しだという。
講義に続くコメントで、山中先生は自身がデザイナーとして携わった自動車産業を例に取り、本来的で自然な機能美と人工的な美の間にギャップがあり、それが破壊したものがあるのではないかと問題提起を行った。これに対し、久野先生は見た目と実際の味や食感が必ずしも対応しない中で、本来的な味を取り戻す動きもある反面で、日本の場合は西洋化が進む20世紀前半の方が大量生産にとらわれない自由な感覚があったのではないかと指摘した。オーディエンスからは「インスタ映え」を追求する動きなど現代の状況と絡めた質問も寄せられ、味覚よりも視覚に強い関心が置かれることをめぐる議論、大量生産とユニーク性の矛盾なども議論された。