2022.May.10
REPORTS第4回B’AI Book Club報告
Francesco Marconi, Newsmakers: Artificial Intelligence and the Future of Journalism (2020)
田中 瑛(2021年度 B’AIリサーチ・アシスタント)
・日時・場所:2021年9月21日(火)15:00 – 16:00 @Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・書籍: Francesco Marconi (2020). Newsmakers: Artificial Intelligence and the Future of Journalism. Cambridge, New York: Columbia University Press.
・評者:田中瑛
2021年9月21日に、B’AIグローバル・フォーラムのプロジェクトメンバーによる書評会「B’AI Book Club」の第4回を開催し、リサーチ・アシスタントの田中瑛(報告者)がFrancesco Marconiによる著作『Newsmakers: Artificial Intelligence and the Future of Journalism』(2020)をレビューした。Marconiは情報会社Applied XLを共同設立し、AP通信社やWall Street Journalで、AIを活用したコンテンツ制作の自動化やデータ分析手法の開発を率いてきた人物として知られ、同書では、AIに仕事を奪われることへの現場のジャーナリストの不安に対し、どのようにニュースルームがAIと協働していけば良いのかについて、「反復的ジャーナリズム」(Iterative Journalism)と名付けてモデル化を試みている。
まず、書評の内容を簡単に説明する。評者が同書を選んだ理由は、BAIRALの研究会でも紹介して頂いた「AIJO」プロジェクトのように、ジャーナリズムの現場における人工知能(AI)の応用可能性を検討する必要があると考えたためである。同書はニュースルームにおけるAI活用の事例と意義を理解する上で重要な文献であり、示唆に富む点もある。全体的に、特にニュースルームを報道記者だけの閉じた空間ではなく、オーディエンスとの相互作用を通じて集合知が形成される空間として捉え直すために、報道機関が従来の業務の強化(augmentation)にAIを活用するべきだという主張は、大変興味深いものである。しかしながら、ジャーナリズムがAIを活用するべきだという問題、AI活用の事例紹介、AI活用によるジャーナリズムの変化の3部構成であると差し当たり理解できるものの、章の構成が不十分であるがために、問題意識が交錯し、読みづらい印象を受けることを指摘した。
議論でも同様のことが指摘された。特に筆者の主張については、ジャーナリズムをニュースの生産活動と狭く捉えているために、労働効率化の観点からAI活用を強調しているが、ジャーナリズムと民主主義の関連性についての考察が不十分であり、集団極性化やフィルターバブル、プライバシー権などの社会全体において付随する問題に関する考察がほとんど見られない。コロンビア大学ビジネススクール出身のMarconiは基本的に経営の立場からジャーナリズムを捉えているが、AIが民主主義的実践としてのジャーナリズムにどのような影響を与えるのかは、別の視座から批判が加えられることで、さらなる議論の発展が期待される。