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2020年度第2回BAIRAL研究会「ニュースルームにおけるジェンダーバイアスの解明―世界8社との連携プロジェクト『AIJO』について」報告

田中 瑛(東京大学大学院学際情報学府博士課程、B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年1月27日(水)10:30-12:00 @Zoomミーティング
・言語:日本語
・ゲストスピーカー:鈴木陽介氏(日経アメリカ社)、森一聖氏(日経アメリカ社インターン)
・モデレーター:田中瑛
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2021年1月27日(水)、リサーチ・アシスタントによる自主研究会「BAIRAL」では、「AIJO」プロジェクトの企画開発に携わった日経アメリカ社の鈴木陽介氏と、同社のインターンでカリフォルニア大学サンタクルーズ校に通う森一聖氏をオンラインでお招きし、2人が企画・開発に携わった、人工知能を活用したニュースルームにおけるジェンダーバイアスの解明の取り組みについて紹介して頂いた。

 

「AIJO」は、Googleがメディア企業での人工知能の活用を目指し、英国のLondon School of Economics and Political Science (LSE) を事務局として、各報道機関に呼び掛けて実施している「JournalismAI」の一環であり、日本経済新聞社を含む同業8社がニュースルームにおけるバイアスの解明を目指して共同で発足した国際的なプロジェクトである。送り手側の認識に潜む様々なバイアス(例えば、ジェンダー、年齢、人種)が、見出し画像や取材対象、記事本文などに反映されることが問題とされる中で、その是正を目指すべく展開されてきた。

 

まず、実際の取組みにおいて、技術的に何ができて、何ができなかったのかについて説明を受けた。「AIJO」では、各社の言語的多様性からテクストの自然言語処理が難しいという事情もあり、まずはSNSのシェア機能などで目に着きやすい見出し画像を用いて分析を行うことにしたという。機械学習を利用して、顔検出と性別推定を行い、人為的にフィルタリングする過程も実演された。この分析に必要なツールはGithubを通じて誰でも利用できる状態で公開されており、他社による活用にも開かれているという。

 

今回の研究会には、研究者や報道機関の関係者など30名近くが参加し、参加者からは「実際に計測してどのように感じたのか」などの質問もあった。途中からは参加者との議論を交えながら進められた。技術的な課題に加え、技術開発に携わる上で生じたジレンマ(ジェンダーを男女で識別することや、チーム内の男女比率)や、分析結果に現れる政治空間における性差、報道現場への分析成果の還元のあり方についても議論された。前回のBAIRALでは人工知能の社会的な意義について批判的に検討したが、今回は社会的問題の解決に向けて人工知能を活用する方法論のフロンティアを垣間見ることができた。