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第4回レジャー研究会「アイドルと抑圧の構造:レジャー空間における規範と歪み」報告

田中 瑛(2021年度 B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年7月2日(金)17時~18時 @Zoomミーティング
・言語:日本語
・モデレーター:板津木綿子(東京大学大学院情報学環教授)
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2021年7月2日にB’AIグローバル・フォーラムの研究シリーズ「レジャーにおける格差・差別・スティグマ」の一環として開催された第4回レジャー研究会では、アイドルを研究している慶應義塾大学の上岡磨奈氏に、アイドルの労働において生じる抑圧の実態を報告して頂き、特にその背景にある「強制的異性愛主義」に関する問題性について伺った。

まず、ケア労働との類似性が高いアイドルは様々な規範に抑圧されていることを説明して頂いた。アイドルは非熟練労働を装い、何者かになるまでの過渡期の消費を促すことから、容易に代替され得る存在である。そして、自分自身の日常生活をコンテンツ化しているため、「飛び込み」を含む芸能活動に優先的に対応する必要がある。そのため、ほぼ完全歩合制であるにもかかわらず、アルバイトなどの経済収入さえ自由に組むことができず、家族からの援助に依存しなければ生活が成り立たないという実態があると言う。その背景には、芸能事務所との権力関係や「仕事をさせてもらっている」という意識が構造的に刷り込まれていることがあると上岡氏は分析する。

一方で、アイドルは一般的に疑似恋愛の対象として思い描かれ、そのイメージが異性愛主義と男女二元論に支えられていることを、メンバーの恋愛禁止を明確にしていた「AKB48」などを例に取り、指摘した。そして、その背景にある共感や癒しといった抽象的な感情を商品化することのニーズを逆手に取った事例として、メンバー全員がゲイであることを明らかにして活動するアイドルグループ「二丁目の魁カミングアウト」(「二丁魁」)を紹介した。「二丁魁」は性的マイノリティであることの不安などをストレートに楽曲に取り入れることで、疑似恋愛ではなく音楽活動を基軸に据えているという。

総合的に、アイドル産業はパーソナリティをエンタメとしてパッケージ化しており、その背景にある抑圧や歪みを不可視化している点に問題があることが理解できた。そして、発表を踏まえて、生産者側のみならず、その消費の在り方などについても議論が交わされた。こうしたポピュラー文化におけるケアと労働の問題はまだ十分に検討されておらず、このことがいかに重要な意義を持つのかを認識する良い機会となった。