REPORTS

Trauma Reporting研究会2021年度報告

河原理子(東京大学大学院情報学環特任教授)

・日時:①2021年6月27日、②8月22日、③9月4日、④10月3日、⑤11月28日、⑥2022年1月30日、⑦2月6日、⑧2月23日
・場所 : Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・座長 : 河原理子

Trauma Reporting研究会は2021年度、読書会を8回開催した。

読んでいるのは、Trauma Reporting: A Journalist’s Guide to Covering Sensitive Stories (Jo Healey, 2019)。イギリスを中心にした英語圏のベテラン取材者と、自分や家族がトラウマ(心の傷)になるような出来事に見舞われて取材を受ける側になった人々の、経験と語りを踏まえて、詳細で具体的な提言を示した本である。事件事故や災害のみならず、内戦や紛争、アシッドアタック(酸による攻撃)、女性器切除、難民になることなど、幅広い出来事が含まれている。

2021年度は、第5章までを読み、取材にあたっての準備、相手との関係づくり、子どもを取材する場合、などのテーマで学び、トラウマについての基礎知識も得た。研究会参加者の取材経験を共有しながら議論し、医療者が支援に入ったり話を聴いたりする場合との違いと共通点についても考察した。相手の痛みに触れるインタビューは、取材者も研究者も行うわけだが、その場合の対処について、私たちはどこかで習ってきたか、どこで習得すべきなのかといったことも話し合われた。取材する側の自己コントロールの大切さ、取材相手へのアフターケアの重要さについても認識を深めた。

また、取材文化の違い、言論に対する認識の違いや人権感覚の違いなど、土壌の違いが、たびたび話題になった。例えば、「子どもの権利と意思を尊重する」というスローガンに異議はなくても、日本では、保護者の意向を優先する傾向にあるのではないか、との指摘があった。

本書のキーワードである“empathy”と、日本語の「共感」のニュアンスの違いについて、私たちは繰り返し話している。日本語の「共感」は「他人と同じような感情(考え)になること」(『新明解国語辞典』第7版)など、「同じ」であることが強調されるが、相手は違う人間であり違う体験をしている。本書は、“empathy”について、ジャッジせずに他者の情動状態を理解しようとする能力、その人を理解しようと努めることであり、同情(sympathy)や憐れみ(pity)とは違うものだと述べている。「あなたがどんな体験をしてきたか私は知ってますよ」などと取材者が言ってはならない、とも釘を刺している。

また、careと「ケア」は同じなのか、取材者が「プロフェッショナルである」とはどういうことか、についても問題提起があった。このあたりは、後半を読みながら、引き続き考えていく。