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第5回レジャー研究会「テクノロジーがもたらす『新しい搾取』に抗する―Vチューバーと『身体の客体化』をめぐる問題―」報告

深町航太(東京大学工学部システム創成学科PSIコース)

・日時:2022年8月4日(木)17時~18時(日本時間)
・場所:Zoomミーティング
・言語:日本語
・ゲストスピーカー:鮎川ぱて(東京大学先端科学技術研究センター協力研究員、教養学部非常勤講師)
・モデレーター:板津木綿子(東京大学大学院情報学環教授)
(イベントの詳細はこちら、講演の録画はこちら

2022年8月4日に、B’AIグローバル・フォーラムの研究シリーズ「レジャーにおける格差・差別・スティグマ」の一環として第5回レジャー研究会が開催された。今回は、東京大学先端科学技術研究センター協力研究員・教養学部非常勤講師の鮎川ぱて氏に、VR空間上で特定の身体イメージをまとうことに関する問題、特にジェンダーの問題についてお話しを伺った。

一つは、自己表象が言動に影響するという効果であるプロテウス効果やそれに関する統計調査などを根拠にして、イメージの効果を普遍化して語ることの危険性についてである。ソーシャルVRにおけるプロテウス効果の一例である「女性アバターを使うことで穏やかな気持ちで行動できる」といった事象は、個々人の持つジェンダーイメージの表象に過ぎず、それを普遍化することは既存ジェンダーイメージの追認やジェンダーシステムの再強化に繋がると指摘した。

もう一つは、歴史的に存在してきた「男は見る主体/女は見られる客体=対象」という非対称な通念に関するものである。女性アバターを用いる男性Vチューバーへの性的コメントの増加、及び、それに対するVチューバーの肯定的な応答を例として取り挙げた。そして、既存の外部に置くことによる客体化とは異なる、「それ(女性の姿)になる」ことによる新しい「身体の客体化」とその結果起こる「新しい搾取」に警鐘を鳴らした。

続いて話題はトランスジェンダー当事者とVRの関係に移った。当事者にとって、本来の自己表象を獲得できるVR空間という場が理想空間であることは多く指摘されている。そのことに言及した上で鮎川氏は、先述した対象化の問題に対して、アバターの使用可能者を線引きすることによる解決方法は、自認の問題が他者に委ねられる点で後退的であると指摘した。さらに、こういった線引きが自発的に生じることで当事者が傷つくことも起こりうると続けた。

最後に、VR空間、特にソーシャルVRにおけるジェンダーの問題は表象の問題であり、ルールではなく倫理が求められるとまとめた。その上で、この倫理がフェミニズムの要求してきたものとほとんど同じであること、そして、自身のまとうイメージを変えられる点で主体が制限されない空間であるからこそ、客体に対して倫理をもつことが重要であるということを補足した。

また、講演後には、質疑応答を通した参加者とのディスカッションが行われた。ここでは、今回言及した問題における「かわいい」などの日本文化の影響や日本と海外での差異、ソーシャルVRの果たす役割などについて活発な議論が交わされた。

今回の研究会は、潜在的なものも含めた問題点について知るだけでなく、VR空間などのテクノロジーとジェンダー問題の関わりについて考える重要性は、技術が発展している最中である現在特に高いということを認識する機会となった。また、一参加者として、こういった視点から見たソーシャルVRの問題点・利点の両方が広く周知され、議論されることは、結果的により多くの人にソーシャルVRが受け入れられることにつながると感じた。

[i] バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論』(技術評論社、2022年)P162「物理性別とアバターの性別 – ソーシャルVR国勢調査」