REPORTS

第3回B’AI Book Club報告
Kai-fu Lee, AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order (2018)

Lim Dongwoo(2021年度B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年7月16日(金)17時半~19時 @Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・書籍: Kai-fu Lee (2018). AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order. Mariner Books.
・評者:Lim Dongwoo

2021年7月16日(金)、 B’AI Global Forumのプロジェクトメンバーとその関係者が参加する書評会「B’AI Book Club」の第3回が開催された。今回は、B’AI Global ForumリサーチアシスタントのLim DongwooがKai-fu Leeの『Ai Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order』(Mariner Books, 2018)を紹介した。

本書の著者であるLeeは台湾で生まれ、11歳頃アメリカに移民し、そこで教育を受けた。コロンビア大学やカーネギーメロン大学でコンピューター科学や人工知能を勉強した彼は、グーグル、アップル、マイクロソフトなどで働いた後、今は中国で事業を行っている。このような著者の独特な背景はこの本の観点と内容にも大きな影響を及ぼしたと見られる。

Leeは同書で「中国が決心すれば世界を覆すほどの巨大な波になるだろう」と語る。また今まで西欧は、中国がコピーキャットに止まると考えてきたが、それは間違っており、AI時代の最大の恩恵者は中国になると主張している。さらに、AI時代にはエジソンのような一人の天才よりは優秀な複数のエンジニアを確保すること、また質の高いデータを収集することなどが重要であり、中国がまさにこれらの条件をすべて満足している国だと述べている。

しかし、Leeは情報収集過程で無視されているプライバシーの問題、そして権威主義政権がAI技術を統制することによって生じるリスクなどについては語っていない。発表に続くディスカッションでもこのような指摘があった。また、中国のデータは中国内でのみ共有されるのではないかというデータの開放性に関する問題提起もあった。さらに、たとえカナダがAI革命に成功しても強大国にはならないのと同じように、中国の場合にもAIの他に政治経済学、文化的要因などを一緒に分析しなければならないのではないかという批判もあった。

このように様々な長所と短所を持っている本だったが、普段はよく知らなかった中国内のAIに関する情報に触れることができたのは新鮮な刺激であった。AIを研究するに当たっては、AIを取り巻く国という環境、それに伴う制裁、支援などについても考えてみる必要があるだろう。