REPORTS

第4回サイエンスカフェ「Social Imaginary of AI in East Asia」報告

Lim Dongwoo(2021年度B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時:2022年1月17日(月)17時~18時
・場所:Zoomウェビナー
・言語:英語(同時通訳あり)
・講 師:久野 愛(東京大学大学院情報学環・准教授)、Shuang Lu Frost(オーフス大学・講師)
・ファシリテーター:高祖 歩美(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 NBRP広報室・広報室長)
(イベントの詳細はこちら、録画はこちら

2022年1月17日(月)、B’AIグローバル・フォーラムの久野愛准教授はBeyond AI研究推進機構が開催する公開セミナーである第4回サイエンスカフェに登壇した。サイエンスカフェはBeyond AI研究推進機構の研究リーダーとサイエンスコミュニケーターとの対談の形式により、研究内容の社会発信を試みている。今回は「AIと社会」をテーマに技術開発の倫理的問題や社会的影響など、AIの社会性について対談が行われた。米・デラウェア大学で博士号を取得した久野氏は感覚史、技術史、経営史を専門とした。またAI研究で国際的に活躍する、オーフス大学のShuang Lu Frost氏もゲストスピーカーとして参加した。

久野氏は今回の講演のテーマが「文化的観点から見たAI」であり、AIは文化の影響を受けて発展し、AIも文化の発展に影響を与えているため、AIを文化的対象と見るべきだと強調した。また、現在のビジネスフィールドでのAI研究および応用のトレンドを紹介し、最後に人文社会系研究者のAI研究においての役割について議論することが今回の講演の目的だと説明した。続くプレゼンテーションでFrost氏は、イーロン·マスク(テスラCEO)と馬雲(アリババグループ創業者)のAIに対する相違な観点、そして中国で「ブラックテクノロジー」という用語が使われるようになった経緯などを紹介しながら、AIに関する視点は文化的コンテキストの中で作られると主張した。また彼女はAI技術自体の発展よりも、それが実際の問題を解決するためにどのように役立つかを議論することが重要だと強調した。

講演の後は、オーディエンスからの質問に対してFrost氏と久野氏が答える形の質疑応答が続いた。チャットを活用して募られた質問はファシリテーターによって英訳されて伝えられた。社会によってAIの使い方が変わった具体的な事例があるかという質問に対してFrost氏は、中国で新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者を特定するために使われているAIを例に挙げながら、個人の自由の制限に関して敏感なヨーロッパでは個人を監視する方式の政策を実行することが難しいだろうと述べた。逆にAIが文化に与えた影響に関して久野氏は、食飲の組み合わせを推奨するアルゴリズムを提供する食産業界のスタートアップの例を挙げ、このような技術が人間の感覚を標準化してしまう恐れがあると懸念を示した。また、この技術が感覚を豊かにしているのか、完璧な味というのは誰が決めるのかに関しても考えなければならないと付け加えた。一方、Frost氏は消費者文化に大きな影響を与え得るAI技術の事例として価格個人化推薦システム(personalized pricing recommender system)について触れた。最後に久野氏は「人文社会科学者たちは批判するだけだ」という非難は誤解であり、このような認識を払拭させるために人文社会科学者も工学者とより積極的に交流する必要があると述べた。Frost氏も大学の工学部に倫理など社会科学的思考を教える授業が増えなければならないと主張した。