REPORTS

第13回B’AI Book Club報告
Paul Roquet, The Immersive Enclosure: Virtual Reality in Japan (2022)

加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所: 2022年7月26日(火)17時半~19時 @Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・書籍: Paul Roquet. (2022). The Immersive Enclosure: Virtual Reality in Japan. NY: Columbia University Press.
・評者:加藤大樹 (B’AIリサーチ・アシスタント)

2022年7月26日、B’AI Global Forumのプロジェクトメンバーとその関係者が参加する書評会「B’AI Book Club」の第13回がオンラインで開催された。書評会では、まず評者である私、加藤が今回の書籍『The Immersive Enclosure: Virtual Reality in Japan』(Columbia University Press, 2022)について紹介した。この本は、様々な日本の事例に言及しながら、VR、つまり身の回りの環境(現実)とのつながりを断絶するという動作を取り巻く文化政治を明らかにした本である。本の紹介の後には、参加者を交えて質疑応答をおこなった。

 『The Immersive Enclosure』は、これまでのVRに関する研究や言説がヘッドセットの内部に作り上げられる世界や表象にのみ焦点を当てており、そもそもなぜ、いかにしてVR(もしくはバーチャルとリアルの二分法)が人々を惹きつけるようになったのかという問題を見落としてきたと論じる。そこで本書は、VRのハードの側面、すなわち空間的、社会的、歴史的な文脈(現実)を括弧でくくり、ユーザーをコントロール可能な操作されたバーチャルの世界に閉じ込めるインターフェイスそのものに着目する。このような視座を持ちつつ、著者はそうしたVR技術が特定の社会的文脈の中からいかにして出現してきたのか、そしてVRの世界が外部のより広範な社会的環境とどのように交差しているのかを解明することを試みる。『The Immersive Enclosure』では、これらの問いに答えるために、VRに関して独自の歴史や文化を持ちつつも、これまでの英語圏のVR研究では十分に分析されてこなかった日本を対象に、ケーススタディがおこなわれている。本書の最初の3章はVR発展の歴史について論じており、例えば個人的な認知空間を求める社会的欲求の誕生や、「バーチャル」という概念に付与されるイメージの変遷などが議題として取り上げられている。その後の2章では大衆文化の一形式としてのVRを分析しており、日本の「異世界」物語やVR空間における/を取り巻く男性性の問題などに焦点を当てている。

 VRは新しく、出てきたばかりの研究分野なので、今回の書評会の参加者にとって、本書に登場する語彙や概念の中には馴染みのないものもあった。それゆえディスカッションのパートの多くの時間は、本書の主張をより深く理解するために費やされた。例えばある参加者は、本書に登場する「enclosure」や「ambient」といった概念がVRの分析においてどの程度有用なのかということについて論じ、別の参加者はこの本の射程について、すなわち、本書の分析枠組みがARやメタバースといった類似の研究にも応用可能なのかどうかについて疑問を呈した。また、本書の著者はVRに関する日本の状況を英語圏の読者に紹介するということに力点を置いているため、VRを取り巻く英語圏の状況はある種の背景知識となっており、本書ではほとんど説明されていない。そのため、日本の読者の中には(今回の参加者と同様に)、本書の分析のうち何が日本に特有のもので何がそうでないのか、がわからないという人も一定数いるかもしれない。

 本書の研究分野に馴染みがない人々にとって、イントロダクションの理論的で抽象的な議論は難解かもしれないが、VRに関する日本国内の言説や取り組みについて豊富な事例とともに学べるのは、大変興味深く、多くの人が楽しめるだろう。VRは様々な分野でますます多くの注目を集めており、近い将来には日常生活にありふれたテクノロジーとして活躍している可能性もあるため、今のうちからより活発な議論をおこない、分析枠組みを整理し、VRが社会に及ぼしうる影響を細かく見ていく必要がある。本書はVRに関していくつかの重要な論点を提起しており、今後の議論の土台もしくは出発点として、必読の書といえる。