REPORTS

ソフトバンク本社 訪問報告

プリヤ ム(東京大学大学院学際情報学府 アジア情報社会コース 修士課程)

・日時:2022年11月16日(水)
・場所:東京都竹芝 ・東京ポートシティ竹芝・「ソフトバンク」本社

「販売する商品が変化するにつれて、会社自体も変革しなければならない。
当たり前のことは、もはや当たり前ではない」

-ソフトバンク株式会社
AI戦略室  AIプロジェクト推進部

 

 

2022 年 11 月 16 日、B’AIグローバル・フォーラムでは、東京ポートシティ竹芝にあるソフトバンクの新しい本社を訪問しました。 AI戦略室AIプロジェクト推進部の中川栄治氏とそのチームメンバーの小林章浩氏、浦野憲二氏、髙橋真実氏に会い、AIにおける倫理とガバナンス、そしてダイバーシティ&インクルージョンを実現するための妥協のないポリシーの策定方法について話し合いました。

スマートシティの実現に向けた東京都の政策は、モビリティと防災技術を高めることによって都市インフラを改善するための技術的ソリューションの展開を促進しています。 ソフトバンクは、スマートシティのモデルケースとして東京ポートシティ竹芝にさまざまなソリューションを実装しており、他都市とのデータ連携により、周辺から他都市への技術展開を目指しています。 東京ポートシティ竹芝は、42階建ての最新鋭の商業・業務施設複合ビルで、 12階から39階までがソフトバンク株式会社のオフィスとして使用されています。 ビルの東側には、インフラストラクチャ管理に最新のテクノロジーを使用する 18 階建ての独立型住宅タワーもあります。

最初に訪れた19階の会議室で、まず中川氏から、ソフトバンクがAIとIoTを使用してインフラストラクチャを管理する方法についてのプレゼンテーションがありました。会議室からは、2.5キロメートルにおよぶ竹芝運河にいくつかの橋が架かっていて、雑誌や都市の宣伝広告ではなかなか見ることのできない東京のベネチアンビューを一望することができました。どのフロアからも東京の素晴らしい景色を眺めることができるに違いありません。でも最も印象的だったのはビルそのものでした。中川氏の説明によると、1400 以上のセンサーから集められたデータを用いる AI および IoT テクノロジーは、いくつかの実用的な目的に沿って使用されているということです。主な用途の 1 つは、カフェテリアやトイレなどのさまざまなエリアの使用者数をライブモニタリングすることです。システムは高度な Vayyar Imaging を使用しており、ビル内の人々のリアルタイム データは東京ポートシティ竹芝のホームページ上で一般にも公開されています。 オフィスエントランスに設置されたAI顔認証カメラによって従業員の入退室管理が容易になり、従業員が入室すると、システムが8つのエレベーターのうちどれを使えば最も速く各部署に行くことができるかを自動的に提案するなど、効率的にリソースを節約します。以前は、エレベーターの混雑を避けるために、従業員は異なる時間に出勤しなければならなかったのでこのシステムは非常に効果的だということです。混雑管理以外にも、警備ロボット「SQ-2」や法人向けお掃除ロボット「Whiz」などにもAIやIoTが活用されています。ソフトバンクは、2016年以来、労働文化を変革してきました。2017年に「スーパーフレックスシステム」を採用し、2018年にはWeWorkを使用したサテライトオフィスを採用しました。コロナ禍によって必然になったツールをソフトバンクはかなり前から使用してきました。

労働文化の全体的な変革に貢献したのは、AI、IoTなどのソフト インフラストラクチャだけでなく、ハード インフラストラクチャのイノベーションでもあります。3フロアを内階段でつなぐ3in1のデザインをオフィス空間の全体に採用し、各フロアに特定の機能を配置することで従業員がより頻繁に階段を使用するよう誘導しています。これによって、節電効果が得られるだけでなく、従業員同士の「偶然の出会い」が可能となり、交流や雑談の機会が増え、会社への所属感が高まる効果もあるということです。ソフトバンクに 20 年以上勤めている小林氏は、空間デザインの変化が労働文化にポジティブな影響を与えていると言っています。 「前のチームで一緒だったメンバーなど、普段あまり会うことができない人々に頻繁に会うようになりました」と述べていました。それに対して浦野氏は「決められた場所で仕事する必要がないため、探している人が必ずいつもの場所にいるとは限らない側面もある」とした上で、「当たり前のことは、もはや当たり前ではなくなりましたが、それによってさまざまな方法に適応する機会が得られる」と述べました。

テクノロジーによって無数のデータを管理できるようになり、早いスピードで変化が起きているなか、この加速されたプロセスから誰一人取り残されないようにすることが重要となります。これはまた、私たちの社会が現在採用している不公平な方法を正す機会でもあります。このため産学連携は重要となります。我々は、インフラストラクチャに関する話し合いの後、AI の倫理とガバナンス、そしてダイバーシティ&インクルージョンについて議論しました。ソフトバンクのAIガバナンスの進展について説明した浦野氏は、より良いガバナンスによってリスクを軽減できるが、新しい道を歩む自由が失われる側面もあると言及しました。それに加えて中川氏は攻守のバランスの重要性について話しました。さらに、AI ガバナンス ポリシーの策定と、すべての従業員に適切な e ラーニング ツールを用意することの重要性についても皆で話し合いました。続いて、B’AI特任研究員のキム・カヨン氏が東京大学のダイバーシティ&インクルージョン推進の取り組みについて発表しました。2020年に東京大学で実施されたダイバーシティに関する意識・実態調査、そして2021年9月に公表された東京大学が目指すべき理念や方向性をめぐる基本方針であるUTokyo Compassについても紹介しました。

最後に、30 階のカフェテリアに議論の場所を移してさらに上記の課題について話し合いました。ここからもまた、お台場とレインボー ブリッジが見えるここならではの東京の景色を眺めることができました。そして4階テラスの水田に立ち寄り、訪問を締めくくりました。 水田もAI技術を活用し、温熱環境の改善に貢献しており、 また、日本の稲作文化を通して季節の移ろいを感じられるように設置されていました。ハイテク都市の真ん中に水田があることはある意味でシンボリックな宣言と見られます。共在できないと思われてきたものがお互いの繁栄のための共生関係を構築していて、この水田はその関係を強調する象徴となります。このような関係性の構築こそがダイバーシティ&インクルージョンの真髄だと信じています。