REPORTS

Justin Gest氏講演会「Majority Minority: How Do Societies Respond to Demographic Change?」報告

加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時:2022年9月28日(水)14:00~15:30(日本時間)
・場所:ハイブリッド(Zoomミーティング&東京大学本郷キャンパス工学部2号館92B教室)
・言語:英語(通訳なし)
・講演者:Justin Gest(米ジョージ・メイソン大学 准教授)
・モデレーター:久野 愛(東京大学大学院情報学環・学際情報学府 准教授)
(イベントの詳細はこちら

2022年9月28日、B’AIグローバル・フォーラムでは、東京大学大学院情報学環アジア情報社会コースとの共催で、米ジョージ・メイソン大学のJustin Gest准教授による講演会「Majority Minority: How Do Societies Respond to Demographic Change?」を開催した。Gest准教授は移民や人口変化の政治について研究しており、学術論文やニュース記事へのコメント提供といった形で多くの情報発信をおこなってきた。彼の最新の著書『Majority Minority』(Oxford University Press、2022)では、マジョリティとマイノリティの移り変わりを経験した複数の社会におけるフィールドワークに基づき、社会が大きな人口変動に対してどう反応するのかを分析している。講演では、Gest准教授がこの本の概要を説明し、住民の多様化に対してどう対処すべきかについて議論した。

これまで国家や政府は、人口変化や多様化する社会に対する人々の反応をコントロールするということに関して、大きな困難に直面してきた。アメリカを含むいくつかの国は、もともと民族的もしくは宗教的に多数派を占めていた社会集団が、外国に起源を持つ、1つもしくは複数の少数派の集団に対して優位性を保てなくなるという、マジョリティとマイノリティの移り変わりを経験している。政府は、移民の数や正当なメンバーシップ、社会集団間の接触などを制限することによって人口変動をコントロールしようと試みるが、そうした大きな人口変動の舵取りをすることは、非常に難易度の高い問題である。加えて、人々は新参者に対して不寛容で排外主義的な反応を示す傾向にあり、それが共存の達成をより困難にしている。では、私たちはいかにして多様化する社会に対処することができるのだろうか?

この問題に答えるために、Gest准教授はすでにマジョリティ・マイノリティ問題の大きな節目を経験している複数の社会について研究している。自身がおこなった歴史的な分析とインタビュー調査をもとに、彼は現実的な解決策をとることの重要性と、国家や政治的エリートが社会的境界を構築・脱構築するために大きな力を持っているということを強調する。普通、偏見や不寛容は社会の進歩を妨げると思われがちだが、Gest准教授は、共存に成功している社会であってもナショナリズムに基づく考え方は生き続けていると指摘する。したがって、ナショナリズムを恐れてそれを消し去ろうとするのではなく、どの社会でも団結力やナショナリズムの力が働いているということを認め、それを移民を支援するために活用するという方向に舵を切る必要がある。そしてそれを達成するためには、国家や政治のリーダーが果たす役割が重要となってくる。国家や政治のリーダーは、政治制度や人口変動のフレーミングを通じて、ナショナリスティックな考え方をコントロールして現在の問題を克服する大きな力を持っているのである。

講演後の質疑応答では、参加者から、現実問題として大きな人口変動の舵取りを成功させることはいかにして可能かという質問が多く飛んだ。例えばある参加者からは、マイノリティを搾取することなくナショナリズムを利用するということが本当に可能なのか、という質問が投げかけられた。この問いに関してGest准教授は、ナショナリズムにはいくつかの種類があり、社会的包摂を達成するためにはシティズンシップに基づくナショナリズムが必要であると述べる。したがって私たちは、私たちの国に固有の特徴や属性、それも人種や民族、宗教に基づかない特徴を見つける必要がある。また別の出席者からは、Gest准教授の発想はハーバーマスの憲法パトリオティズム(constitutional patriotism)と似ているが、その考え方を採用したEUの国々は今のところ多様な社会を統合することに失敗している、それについてどう考えるかという問いかけがあった。この質問に対しては、ハーバーマスの考え方は正しかったが、諸国家が新しいナショナリズムを発明するために有用な「古くからあるもの」を軽視してしまったがために、結果的に誤ったナショナリズムと結びついてしまったのではないか、という回答があった。

Gest准教授の考えは間違いなく興味深いが、質疑応答でも議論になったように、ナショナリズムをうまくコントロールする方法についてはより深く議論する必要があるだろう。どうやって共存という目標に到達できるかに関して境界を越えて共通認識を構築するために、その方法や戦略を検討する必要がある。Gest准教授が論じたように、日本も近い将来に大規模な人口変動を経験する可能性があるため、私たちも今のうちからこの問題の解決策を模索し始めた方がよいだろう。