REPORTS

第23回 B’AI Book Club 報告
Minna Ruckenstein (2023) The Feel of Algorithms

プリヤ ム(東京大学大学院学際情報学府 アジア情報社会コース 博士課程)

・日時: 2023年10月24日(火)13:00-14:30
・場所: ハイブリッド(B'AI オフィス & Zoomミーティング)
・言語: 英語
・書籍:Minna Ruckenstein (2023) The Feel of Algorithms. University of California Press.
・評者: 久野愛(東京大学大学院情報学環准教授)

2023年10月24日、第23回「B’AI Book Club」が開催された。B’AI Book Clubは、B’AIグローバル・フォーラムのプロジェクトメンバーが主催する書評会である。今回は、久野愛准教授がMinna Ruckenstein『The Feel of Algorithms』(2023)の書評を行った。本書は、アルゴリズム技術に関連する個人の感情的な反応や経験を探求している。本書では、アルゴリズムが日常的な慣習や相互作用をどのように形成しているのか、そして人々がこれらのアルゴリズムとの関わりの中で、興奮、恐怖、フラストレーション、その他の感情をどのように感じているのかを検証している。さらに本書は、感情的なテクノロジー関係への文化的な転換について論じ、アルゴリズム・システムの設計や議論において、こうした感情的な反応を考慮する必要性について述べている。

本書で論じられているのは、感情の以下3つの構造である:

  1. アルゴリズムがもたらす利便性や効率性を強調し、アルゴリズムの肯定的な側面に焦点を当てる、支配的な感情の構造。
  2. プライバシーへの懸念、監視、透明性の欠如など、アルゴリズムに関連する恐怖に焦点を当てる、対立的な感情の構造。
  3. アルゴリズム・システムの不完全性に起因する人々の不満や煩わしさに注目した、不意に現れる感情の構造。

著者は、感情的な反応が、アルゴリズム的な関係を改善する際の指針になることを示唆し、こうしたシステムの感情的な側面を理解することの重要性を強調している。

久野氏は、「感情の支配的構造」がそもそもどのようにして「支配的」になったのかを問うなど、「アルゴリズム文化」という考え方の曖昧さについていくつかの批判的な問いを提起した。「恐怖のデジタル地理学」に関する議論は、人間とアルゴリズムの相互作用において地理学という概念が適切だろうかと疑問を投げかけるものだ。久野氏はさらに、「『個人的な』感情は『集団的な』感情にどのように転換されるのか」という重要な論点に光を当てている。これは言い換えるなら、アルゴリズム・システムに対する自分の感情(喜び、苛立ち、恐怖など)は、他の人の感情や実践に影響を与えるのだろうか、という問いである。

全体の議論では、以下のようなさまざまな重要な論点が提起された。私たちはこの研究をどのように活用できるだろうか。感情の研究はアルゴリズム・デザインの考えをどのように導くことができるのか。テクノロジーはどのように私たちの行動に影響を与えることができるのか。議論の中では、「集団心理」、「アルゴリズム・フォークロア」、「理想の追求」、判断する恐怖を含む「判断の地理学」といった概念にも焦点が当てられた。これらの議論において、感情を恐怖や怒りといったカテゴリーに還元することに関する問題が提起され、日常生活で遭遇するアルゴリズムと私たちの関係をより深く検討する必要性が促された。