REPORTS

Jennifer Robertson氏講演会
「「セキュリテインメント」 : 具現化されたAI、 エンターテインメント、 及び監視の関係性」報告

武内今日子(B’AIグローバル・フォーラム 特任助教)

・日時:2023年11月27日(月)15:00-16:30
・場所:Zoomウェビナー
・使用言語:英語(日本語同時通訳)
・講演者:Jennifer ROBERTSON(東京大学東京カレッジ 招聘教員、ミシガン大学 名誉教授)
・討論者:板津 木綿子(東京大学大学院情報学環 教授、 B’AIグローバルフォーラム ディレクター)
・司会:Flavia BALDARI(東京大学東京カレッジ 特任研究員)

2023年11月27日に、東京カレッジとB’AIグローバル・フォーラムの共催でJennifer Robertson氏の講演会「「セキュリテインメント」: 具現化されたAI、 エンターテインメント、 及び監視の関係性」が開催された。Robertson氏は本講演において、SONYのaiboを主な事例として、AIの身体化の一形態といえる娯楽ロボットが企業へのデータ提供を通じて監視デバイスとなっていることを論じている。

まず、本講演では、監視をめぐる日本の歴史的・社会的背景が説明された。かつて発達していた日本の地域組織は今世紀に入ってから縮小しており、地域ベースでの犯罪抑止への関心も低下している。これは、社会の伝統的な紐帯が失われつつあることを意味しているという。これに拍車をかけるのが、日本の政府が戦後、社会問題を科学技術によって解決しようとする傾向にあることだ。ロボットとAIが拡張する社会において、家庭内で人々の関係性がロボットによって媒介されるという構想があり、これは地域や家族の紐帯よりも、個人に重きを置くものである。そしてすでに個々人は、電子媒体やSNSとの親密な関係を築いており、同時に科学技術による犯罪に対する警戒心も高まっているという。

このような背景のもと、大量の監視カメラが商店や企業、個人によって導入され、実際には相関がみられないものの、犯罪率を低下させることが期待されている。しかも監視カメラは、安心、安全、便利というフレーズとともに、おもちゃと同じコーナーで家電量販店において売られているのである。見守りロボットも市場で多く出回っており、外出中に子どもやペットなどを確認するために役立てられている。

そこでRobertson氏が焦点を当てるのが、SONYのロボット犬であるaiboだ。aiboは、セキュリティとエンターテイメントが期待される、セキュリテインメントのためのロボットであるという。初期のaiboは、頑丈そうで機械らしいかたちをしていたが、最新のaiboは小型のテリア犬のようなかたちで表情豊かである。これは、最新のaiboが家族に連れ添い、人を楽しませる存在として設計されていることを示唆する。さらに専用のアプリでは、犬に二元的なジェンダーを付与し、特定のアイデンティティを形成させることもできる。

Robertson氏によれば、aiboがこうした娯楽的な性質をもつと同時に、個々人を監視してもいることを見過ごしてはならない。aiboは日常的に写真を撮っており、そのデータはSONYのAIクラウド上に保存されている。そしてそのデータの価値は、SONYとその関連企業によって管理されているのである。データが資本の一形態であることをふまえれば、こうしたaiboをめぐるネットワークが意味するのは監視資本主義であるとRobertson氏は指摘する。このような身体化されたAIを倫理的に利用するためには、便利さや安全さとはほど遠い不都合な真実に、私たち消費者が向き合う必要があるのだ。

このような監視と娯楽、権力の関係を紐解くRobertson氏の講演に対して、板津木綿子氏がコメントを加え、さらに議論が展開された。たとえば、aiboのかわいらしさがその番犬としての側面から目をそらすという点について、実際にはリスクや危険から人々を守る機能は限定的であり、安心や安全などは誰かが自分を見てくれているという精神的なサポートを意味していることが確認された。ほかにも、企業中心の論理が社会の中心になっている日本で、監視資本主義は何をもたらすのかが問われた。これについては、日本ではAIの悪用についてまだ法制度ができておらずこれから対話が必要とされること、そしてaiboとLOVOTの目指すところが異なるように、企業の規模によってもロボットの設計や目的に違いが出る可能性があることなどが指摘された。

このように、本講演はAIを活用したロボットであるaiboの事例を通じて、企業による監視が日常生活や娯楽にいかに周到に組み込まれているのかを検討する機会として極めて刺激的であった。