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第1回レジャー研究会「レジャーと「格差」はなぜ/どのように交差するのか?」 報告

青野桃子(一橋大学大学院社会学研究科)

・日時&場所:2020年12月4日(金)17:00~18:00 @Zoomミーティング
・言語:日本語
・モデレータ:板津木綿子(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
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2020年12月4日(金)17時から、研究シリーズ「レジャーにおける格差・差別・スティグマ」の第一回研究会が開催されました。「レジャーと「格差」はなぜ/どのように交差するのか?」のテーマでおこなわれた、小澤考人先生(東海大学観光学部准教授)のご発表と質疑応答の様子を紹介します。

 

レジャー研究の歴史は、現代社会の進展と連動しています。欧米では近代化に伴い、「余暇社会学」が広がりをみせました。余暇の定義でも有名なデュマズディエの研究からは、時間と活動の「自由」が余暇のキーワードであったことがわかります。ラポポート夫妻はライフサイクルによって余暇が圧迫される様子を明らかにしました。その後、余暇はウェルビーイング、QOLなどと結びつくようになっていきます。

 

それに対し、1970年代半ばにレジャースタディーズが誕生します。カルチュラルスタディーズの影響を受けたレジャースタディーズは、万人が余暇に等しくアクセスできない問題を指摘していきます。第2波フェミニズムとも呼応して、レジャーにおけるジェンダー格差が明らかになってきたのもこの時期からです。さらに、エスニシティに注目することで、インフォーマルセクターでも格差が再生産されていく様子が描き出されました。

 

以上のような振り返りから、小澤先生からはレジャーと格差をめぐる視点として、レジャーの場では生活水準の格差が表れやすいこと、その一方で文化的条件に伴う格差はより意識化されにくく、「常識」や「常態」として受容されていることが提示されました。そして、レジャーから格差をまなざす意義として、①ほかでも生起している「格差」(差別・スティグマ)をより見やすい形で観察できること、②レジャーの局面で固有に生起している「格差」の再生産プロセス(構造)を明るみに出すこと、③「格差」の課題解決の機会として活用可能なことが問題提起されました。

 

その後の議論では、レジャースタディーズを日本の研究に応用していく方法、2020オリンピック・パラリンピックにおけるダイバーシティの広がり、高齢者の余暇格差、社会教育と生涯教育研究との関連性についてなど、質問があがりました。また、レジャーが多様なものを含みうる概念として広がったために、個別領域としては確立できなくなったことも指摘されました。しかし、レジャーの射程の広さは、労働や経済の視点では見えない課題を解明していく可能性もあります。

 

レジャーにおいて格差のない状態とはどのようなものをイメージしたらよいだろうか、との意見もありました。レジャーが「自由」なもので、そこでの格差が「常態」として受容されているからこそ、レジャー格差を指摘することには反発もあるかもしれませんが、これからもレジャーと格差に関する研究と議論を重ねていきます。