2021.Oct.20
REPORTS第3回レジャー研究会「オンラインゲーム内の格差といじめ:グラディエーター化するeスポーツ選手」報告
Lim Dongwoo (B’AIリサーチ・アシスタント)
・日時・場所:2021年5月25日(火)17:00~18:00 @Zoom
・言語:日本語
・モデレータ:板津木綿子(東京大学大学院情報学環教授)
(イベントの詳細はこちら)
2021年5月25日(火)17時、B’AI グローバル・フォーラムはレジャースタディーズ研究会と余暇ツーリズム学会との共催で、研究シリーズ「レジャーにおける格差・差別・スティグマ」の第三回研究会を開催しました。この報告では、「オンラインゲーム内の格差といじめ: グラディエーター化するeスポーツ選手」のテーマでおこなわれた、山形大学の加納寛子准教授の発表内容と質疑応答を紹介します。
ヨハン・ホイジンガにより誕生した遊戯論が遊びの本質として注目したのは「面白さ」です。たくさんの方がたまごっちやバーチャルペットに関する思い出を持っていると思います。それに加えてコロナ禍によるステイホームで、オンラインゲームをする子どもや若者が増えました。オンラインゲームの空間は、ジェンダーや人種、年齢、身体的な障害に関係なく、皆が楽しむことができる、バリアフリーを実現しやすいレジャーの側面を持っています。またゲーム内では「ネカマ[i]」が許容されたり、実際の容姿に関係なく理想の容姿をアバターに反映させたりすることもでき、「太っている」とか「背が低い」などのコンプレックスから解放されます。
その一方で、権威主義的ポピュリズムが露骨に表出し、メリトクラシーに支配されたりもします。その意味で、オンラインゲーム空間は、リアル社会の縮図とも言えます。フィクションが前提であるが故に、剥出しの性描写、差別、格差、いじめが横行します。そのようなオンライン空間で、暇つぶしにゲームを始めた者は幻滅し、eスポーツ選手を目指す者はグラディエーター化しています。つまりグラディエーターらが賞金稼ぎのために戦ったように、eスポーツ選手らも、賞金稼ぎのために戦っています。出資者の好む戦い方をしているということです。
その後の議論では、グラディエーター化というのは既存のスポーツでもみられてきた現象ではないかという質問があがりました。時間の関係で質疑応答は長くできませんでしたが、このような面白い世界があるのは知らなかったという反応がありました。レジャーシリーズ研究会はこれからもレジャーと格差に関する研究と議論を重ねていきます。
[i] 「ネカマ」という言葉は、ゲイの男性や女装をする男性に対して使われることの多い「オカマ」とインターネットを意味する「ネット」を掛け合わせてつくられた「ネットオカマ」を略した造語であると考えられる。しかしながら先のオカマとは異なり、ネカマは必ずしもホモ・セクシュアルである必要はない。むしろ、セクシュアリティの視点は重視されず、一般にオンライン・コミュニケーションにおいて女性として振る舞うというコミュニケーション様式をとる男性ユーザを指して用いられることが多い。(浅井亮子「情報通信技術が広げる性の多層性表出の可能性」明治大学情報基盤本部編『Informatics』2-2、2009、59頁)