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2021年度第1回BAIRAL研究会「ろう児のための日本手話引き日本語基本動詞辞典の開発」報告

田中 瑛(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年4月24日(土)10:30-12:00 @Zoomミーティング
・言語:日本語
・ゲストスピーカー:大塚優(BBEDろう教育センター)、森田明(明晴学園)、安東明珠花(東京大学大学院総合文化研究科)
・モデレーター:田中瑛
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2021年4月24日(土)、「BAIRAL」では、深層学習を用いてろう児のための日本語辞書を開発する研究プロジェクトの方々を招いた。このプロジェクトは「やさしい日本語プロジェクト」の一環であり、研究者、ろう児者向けの学校である明晴学園の教員、ろう児者向けのバイリンガル教育法を開発しているBBEDろう教育センターのエンジニアが集っている。今回の研究会には80人を超える人が参加し、明晴学園の協力による日本語と日本手話の同時通訳を通じてコミュニケーションを行った。

 

BBEDエンジニアの大塚優氏、明晴学園教諭の森田明氏、東京大学大学院総合文化研究科博士課程の安東明珠花氏に概要を発表して頂き、プロジェクトリーダーである一橋大学の庵功雄教授からも適宜、補足説明を頂いた。森田氏からは、ろうは障がいではなく文化であり、ろう者は手話を第一言語として利用する文化的少数者として理解すべきであるという説明を受けた。また、日本手話と日本語対応手話(日本語に合わせて構成された手話)の成り立ちや文法構造が全く異なり、多くの健聴者が後者を「手話」として認識しているが、ろう者が使用するのが前者であることも学んだ。安東氏は、それゆえにろう児が第二言語として日本語を学ぶには、日本手話で引くことのできる辞書が必要であることを強調した。紙ベースの辞書ではこの条件を満たすことができないことから、このプロジェクトでは人工知能を用いてこのニーズに対応しようと取り組んできた。

 

大塚氏からは技術的な側面について報告して頂いた。実験では基本動詞30語を選択し、明星学園の教員が話す手話を各20回記録し、結果として7語の動詞が実用的なレベルで認識できるようになったという。また、10人のろう児を対象とした実証で認識することができたのは、3~4語の動詞であり、現状では実用的な辞書ではなくゲームのようにしてこのシステムを楽しんでいたとのことである。

 

研究会の後半では、さまざまな事柄について議論を行った。前後方向の運動の認識方法などの具体的な技術的課題、あるいは、日本手話と日本語の語彙パターンの構造的な相違にAIは対応できるのかなどの、実用性を高める上での課題をどのように解決するのかが議論の中心となった。AIは社会的公正の実現に寄与することができるかもしれないが、多文化としての障がいの問題は、これまでのAIをめぐる議論ではあまり取り上げられてこなかった。当事者とAI技術者の協働は、それがたとえ長い道程であったとしても、今後ますます重要になると考えられる。