REPORTS

Trauma Reporting研究会 2024年度報告

河原理子(東京大学大学院情報学環特任教授)

・開催日:㉓2024年5月25日、㉔2025年1月25日、㉕2月11日、㉖3月16日
・場所 : ㉓㉖Zoomミーティング
 ㉔Zoomウェビナー & 東京大学情報学環ダイワユビキタス学術研究館・大和ハウス石橋信雄記念ホール
 ㉕Zoomウェビナー
・使用言語:日本語、韓国語、英語
・座長 : 河原理子(東京大学大学院情報学環特任教授)

Trauma Reporting研究会は2024年度、読書会などのほか、公開講演会を2回開催した。

第23回は、Trauma Reporting: A Journalist’s Guide to Covering Sensitive Stories (Jo Healey)の第12章を読み、この本の読書会を終えた。

第24回は、公開講演会「韓国の記者がトラウマについて話すようになるまで」を対面とオンライン中継で開催した(逐次通訳あり、事後視聴あり)。演者は、「韓国ジャーナリストトラウマ委員会」委員長で、民放SBS記者の、李靜愛(Lee Chong-ae)さん。この委員会は報道界の三団体がつくったタスクフォースで、専門家のアドバイスを得て、2023年に初のガイドブックを作り、公表している。

彼女自身は、2000年前後に報道番組を担当。性被害にあった子どもを取材したことをきっかけに、自分に何ができるのかを考えるようになり、夜間大学院に通う、Dart Center for Journalism & Traumaのフェローになるなどして学び続けたという。韓国の社会、あるいは報道界の転機になったのは、2014年のセウォル号沈没事故。多数の高校生が犠牲になって、「トラウマ」が広く関心を集めるようになると同時に、多メディア時代の激しい取材競争が批判された。これをきっかけに、遺族と記者が互いの話を聞いたり、専門家を交えてワークショップを開くなど、よりよい方法を探る協働が始まったという。放送ジャーナリストが4年に一度、オーストラリアのDart Center Asia Pacificでトラウマ取材の研修を受ける仕組みもつくられた。

近年の韓国社会では、政治的対立の激化を背景に、取材者が暴力を振るわれたり、インターネット上で攻撃されたりするケースが増えているといい、この点にも参加者の関心が集まった。

続けて第25回の公開講演会は、当研究会で読んできた本Trauma Reportingの著者で英国のジャーナリストであるJo Healeyさんに 「トラウマレポーティング—被害者とサバイバーへのより良い取材を求めて」 と題して、オンラインで話を伺った(逐次通訳あり、事後視聴なし)。

彼女は、自分の取材経験から、取材者がトラウマについて学んで的確に行動することの重要性に気づき、公共放送BBC在籍中に、トラウマを負いながら取材に応じた人たちと、専門家、ベテランジャーナリストの話を聞いた上で、「トラウマとジャーナリズム」の取材者研修を考案した。現在は独立して、各国のジャーナリストや大学生などにトレーニングを行い、国際組織や人権活動家とも協力している。彼女のスローガンは、Do your job, do it well, do no harm.

講演は、取材を受けた当事者らの生の声を交えながら、「誠実さ」など大切にすべき6つのポイントを説明し、被害者は皆同じではないことや、取材者同士のピアサポートの必要性など、基本的で大切なことをわかりやすく伝えるものだった。

どちらの講演にも150人前後の参加登録があり、各地のジャーナリスト、学生、研究者、精神科医、心理職、取材を受けてきた被害者などが幅広く参加。質問も途切れなく続いた。

第26回は、二つの講演会を踏まえて、日本で今後必要とされること、この研究会ですることについて議論し、新年度の活動計画を練った。25年度は、年度末にシンポジウムを開くことを目標に、調査研究を進めたい。