REPORTS

2020年度第4回BAIRAL研究会「ネットメディアと新聞社におけるニュース生産過程の『違い』とファクトチェック」報告

加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時・場所:2021年3月24日(水)18時~19時半 @Zoomミーティング
・言語:日本語
・モデレーター:加藤大樹
(イベントの詳細はこちら

2021年3月24日(水)、B’AIのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の第4回目がオンラインで開催された。今回は元朝日新聞社勤務で現BuzzFeed JAPAN記者の籏智広太さんをお招きし、ご自身の経歴や近年積極的に取り組まれているファクトチェックについてお話を伺った。籏智さんによる話題提供の後は、他の参加者も含めて質疑応答やディスカッションをおこなった。

 

籏智さんは主に沖縄基地問題やヘイトスピーチ、戦争体験の取材などに注力されてきたが、それと同時に、インターネット上の疑義言説に関するファクトチェックにも積極的に取り組まれている。話題提供のパートでは、まず疑義言説の拡散プロセスに焦点を当て、まとめサイト、トレンドブログ、YouTubeなど情報拡散の起点もしくはハブとなっているプラットフォームについて詳細な解説があった。籏智さんはこれらのサイトで疑義言説を発信した人々にインタビューもおこなっており、閲覧数・視聴数にもとづく広告収入が、人目を惹く煽情的な情報を素早く大量に(しばしばその正確性を確認しないまま)発信する誘因となっていると指摘する。疑義言説の背後でこうした経済的な動機が強く働いているという点は、イデオロギーや政治的信条にもとづく「フェイクニュース」が広く流通しているアメリカなどとは大きく異なっており、日本の特徴の一つと言えるだろう。疑義言説の拡散プロセスに関する説明の後は、ファクトチェックのプロセスへと話題が移っていった。このパートでは、疑義言説の収集や「ファクト」の確認がいかに困難かについても語られ、特に近年若者の間で普及しているInstagram、TikTok、YouTubeといった画像・動画共有サイトは疑義言説の収集・確認がしにくいプラットフォームとなっている。

 

こうした話題提供の後、ゲストスピーカーと参加者との間で質疑応答やディスカッションがおこなわれた。そこでは日本の言論空間・疑義言説の特徴や効果的なファクトチェックのやり方、またプラットフォーマーの責任や役割などが議題に上がった。特に最後の点に関しては現在、世界中で盛んな議論がおこなわれている最中である。たしかに、ウェブ広告の規制やファクトチェック団体・企業との協力など、疑義言説の発生や拡散を抑制するためにプラットフォーマーにできること、すべきことは多いように思える。プラットフォームの巨大な力の行使のあり方については議論の余地があるものの、今の情報環境を考えると、ジャーナリストやファクトチェック団体だけでなく、プラットフォーマーも連携して「メディア」の環境を整備していくことはもはや必要不可欠である。

 

また、今回の研究会では疑義言説に対処するための取り組みを主なテーマとして取り上げたが、こうした取り組みの促進と並行してより理論的な議論を包括的に進めていくことも大切だろう。インターネット上の疑義言説がすでに大きな問題を引き起こしている現状を鑑みると、それに対処するための仕組みを早急に構築することが喫緊の課題として浮上するが、そもそも「ファクト」とは何か、その検証手続きはいかなる方法によるべきかなど、根本的かつ難しい問題についてもまだまだ社会的な議論が不十分なままである。疑義言説に強い社会を土台から作るためには、こうした問題について丁寧に社会全体で合意形成を図っていくこととファクトチェックの仕組みづくりを両輪として進め、相互に参照しながら体制を整えていくことが求められるだろう。