2023.Apr.17
REPORTSTrauma Reporting研究会 2022年度報告
河原理子(東京大学大学院情報学環特任教授)
・開催日:⑨2022年4月23日、⑩5月28日、⑪6月19日、⑫7月31日、⑬8月28日、⑭10月9日、⑮10月22日、⑯11月6日、⑰2023年1月29日、⑱2月18日
・場所 : Zoomミーティング
・使用言語:日本語
・座長 : 河原理子(東京大学大学院情報学環特任教授)
Trauma Reporting研究会は2022年度、第9回から第18回まで、計10回開催した。
うち2回は、ゲストを招いて勉強会をした。被害経験者と取材者が一緒に作った「性暴力被害取材のためのガイドブック」(2016年、https://siab.jp/news/2150)の中心となった山本潤さんに、作成経過やきっかけを聞くなど、取材を受ける側、取材する側の経験を伺った。山本さんは、被害当事者であり、性暴力対応看護師(SANE-J)でもある。ガイドブックは、取材を受ける側、取材する側、両方に役立つように作られた。トラウマを理解していない取材者にイライラ、モヤモヤすることがあったという山本さんの、「悪意もないけど配慮もないのはもうケッコウ」という言葉が強く心に残った。
あとの8回は、前年度に続き、イギリスの本Trauma Reporting: A Journalist’s Guide to Covering Sensitive Stories (Jo Healey, 2019)を読み進めた。自分や家族が事件や災害に遭って取材を受ける側になった人たちと、ベテラン取材者たちの経験を踏まえて、提言を示した本である。
2022年度は、第6章「インタビュー」から第10章「セルフケア」までを読んだ。取材相手のダメージを深めてしまう行為にどんなものがあり、それはなぜなのか、また、良い実践にどんなものがあるかが示されていた。印象的だったのは、取材の終え方(相手の心の蓋が開いたまま終えないように、「今ここ」に戻れるような問答をする)、取材者の去り方まで示唆されていたこと。また、その後の再訪や「記念日」取材などについて「フォローアップ」の章で示されており、トラウマと取材についても長期的視野で考える必要があることが再確認された。
「セルフケア」の章は、オーストラリアの心理学者Cait McMahonが書いている。取材する側も、心身に影響を受けるのみならず、実存的に打撃を受けることがあること(世界や神への信頼が崩れる、仕事の使命がわからなくなる、など)、他方で、成長(PTG=post-traumatic growth)を感じることもあることを示し、対処方法も具体的で納得感が高かった。
本書は事例もヒントも具体的で、考えやすかった。日本でも、「配慮せよ」「無理するな」だけではなく、やはりもっと具体化していくことが必要だと痛感した。討論では、前年度に続き、「プロフェッショナルとしての境界線」をめぐる議論が多かった。
次年度は、残りの章を読みつつ、アウトプットについても考えていく。