REPORTS

2022年度第6回BAIRAL研究会
「emaとは何者か?――AIによって生成されたバーチャルボディを通して人種とジェンダーの表象を検証する」報告

大月希望(B'AI Global Forum リサーチ・アシスタント)
武内今日子(B’AI Global Forum 特任助教)

・日時:2022年10月18日(火)18:00〜19:30
・場所:Zoomミーティング
・言語:英語
・ゲストスピーカー:ラウリー・華子(東京大学大学院学際情報学府修士課程 / B’AI Global Forum院生メンバー)
・モデレーター:大月希望(B’AI Global Forum リサーチ・アシスタント)
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2022年10月18日(火)、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の2022年度第6回がオンラインで開催された。今回は、東京大学大学院学際情報学府修士課程の院生であり、B’AIグローバル・フォーラムの院生メンバーであるラウリー・華子氏をゲストスピーカーとしてお招きした。ラウリー氏には、進行中のプロジェクトである「ema」についてお話しいただいた。「ema」は、AIを創造的な批評ツールとして使用し、現代の構造的不平等と新たなテクノロジーとの交差がどのような未来を生み出すかを検証することを目的とした、デザインとアートをベースとしたプロジェクトである。本研究会では、ラウリー氏がまずこのプロジェクトが生まれた経緯と、「ema」をデザインするプロセスについて説明し、それから全体での議論がおこなわれた。

まず、ラウリー氏のプレゼンテーションによれば、このプロジェクトの誕生には、日本のメディアにおいて白人の若い女性がミックスドレース(mixed race)のアイデンティティの象徴として非常に多く使われることや、そのイメージの起源にラウリー氏が関心を持ったことが影響している。加えて、東京大学で授業の一環として開催されている制作展でAIを研究している学生と出会ったことや、その後AIにおけるバイアスについて批判的に検討するようになったことが、ラウリー氏が「ema」のプロジェクトを始めるきっかけとなった。

このプロジェクトにおいてラウリー氏は、グーグル画像検索から得られたミックスドレースの身体の既存の表象をインプットしたデータセットで訓練されたAIによって、画像を生成した。そしてラウリー氏はその画像、とりわけ「ema」の顔を展示会で人びとに見せ、どのような反応があるかを探ろうとした。その際、データセットもAIが画像を生成するプロセスも決して中立的なものにはなり得ないため、非常に意識的に作られた顔であることがデザインにおいて強調したという。このプロトタイプに対するフィードバックを経て設計された新たな「ema」では、ラウリー氏は美的感覚やミックスドレースの外見を宣伝し、それを商品化して大衆に提供するファッション・広告業界に着目し、「ema」の身体をモデルとして登場させ、業界関係者、「ema」、ウェブサイトにアクセスする人びとなどの相互作用について検討している。

次に、来場者を含めた全体討論においては、「ema」にたいして人びとが親近感や愛着を持つ可能性や、ファッションや広告など産業界との関わりをもつ第二のプロジェクトにおいて、ラウリー氏が第一のプロジェクトで示していたような批判的な要素をどのように維持しているのかといった論点が議論された。ラウリー氏は第二のプロジェクトにおいて、まずは産業界でAIモデルがいかに受け取られるかを見ることで、バイアスやメディアに関する自分の理解を更新するとともに、ある種の慣習が現在のままエスカレートし続けるとどうなるかという未来図を示しているのだと述べる。これについて、さらにユニコーンや人魚などの神話上の生き物を作り、ファッション業界の限界を試すような実践をできたら興味深いのではないか、という指摘もなされた。関連して、バーチャルボディをめぐる議論においては、性別がなく人種もない身体をつくろうとする立場もある。しかしラウリー氏は、そうした身体も実際には現実の社会におけるレンズを通して表現され、ジェンダーや人種の表象を逃れられているわけではないと鋭く指摘していた。ラウリー氏の議論は今後ますます産業界が用いていくであろうバーチャルボディに関する批判的な検討を可能にするものであり、今後のプロジェクトや展示会にも大いに期待したい。