REPORTS

AIとどう生きる?
B’AIグローバルフォーラム・板津木綿子・久野愛編著
『AIから読み解く社会——権力化する最新技術』(2023) 刊行記念イベント報告

近藤 結(早稲田大学 政治経済学部 国際政治経済学科 4年)


・日時:2023年7月28日(金)14:00~16:00
・場所:対面およびZoomウェビナーによるハイブリッド開催
・言語:日本語
・登壇者:畑田 裕二(東京大学大学院情報学環 助教)
     田中 瑛(九州大学大学院芸術工学研究院 助教)
     前田 春香(京都大学大学院法学研究科 特定研究員)
     西條 玲奈(東京電機大学工学部人間科学系列 助教)
・モデレーター:武内今日子(東京大学大学院情報学環 特任助教)
・主催:東京大学Beyond AI研究推進機構 B’AIグローバル・フォーラム
・後援:東京大学Beyond AI研究推進機構

(イベントの詳細はこちら

 

2023年7月28日、B’AIグローバルフォーラム・板津木綿子・久野愛編著 『AIから読み解く社会——権力化する最新技術』(2023) 刊行記念イベントが開催された。編者の久野愛氏の挨拶の後、執筆者である東京大学大学院情報学環助教の畑田裕二氏(第2章)、九州大学大学院芸術工学研究院助教の田中瑛氏(第6章)が報告を行なった。更に、京都大学大学院法学研究科特定研究員の前田春香氏、東京電機大学工学部人間科学系列助教の西條玲奈氏を招き、現代社会におけるAIの台頭とその影響に焦点を当て、AIとの共存に向けた具体的なアプローチと洞察が議論された。

最初に、畑田氏はVR技術における権力構造とその影響について講義を行った。メタバースは存在と行為を規定するプラットフォームであり、その設計が利用者の生活や権利に影響を与えると説明した後、ここでは現実世界とは異なるルールや情報環境が存在し、その中で権力構造が形成されると指摘した。また、アバターを通じたアイデンティティの作為は、ステレオタイプの強化や再生産に影響を与える可能性があると述べた。更に、VRと現実との感覚刺激のズレについて、VRが提供する感覚刺激は主に視聴覚に限定されており、身体感覚や他の感覚についてはまだ不完全であると説明した。このように、メディアが作り出したリアリティが、自身の脳の予測とどのように「ズレ」ているのかに焦点を当てることの重要性が強調された。

次に、田中氏による「AIと共存する民主主義的主体に向けて」の発表では、民主主義の理念と人工知能の相互関係について説明し、AIの設計や利用における民主化の必要性について論じられた。民主主義は誰もが自由に主体的に意見を出し合い、意思決定に関与する状況を目指す、人間の主体性を前提としている一方で、人工知能は機械学習を通じて、機械には不可能だと考えられてきたような人間に近い感性を再現し、物事を推測する技術であり、客体であるのに主体であるように振る舞うと指摘した。そこで、重要であるのは権力構造を紐解き、活用することであるとし、言説を通じた主体化である生-権力と環境を通じた客体化であるアーキテクチャの分析枠組みを導入した。今後のアプローチとして、AIの設計や利用における民主化、選挙の時にしか意思が反映されない状況を見直したラディカル民主主義の重要性が強調された。

続く前田氏によるコメントでは、本書の特色として①権力への着目、②関係性への着目、③個別分野への着目が指摘された。AIを設計する人間の権力構造に焦点を当てることだけでなく、関係論的な主客が対立しない見方を導入することで、AIと人間の関係を新たに問い直していると述べた。人間とAIが単なる主体と道具ではなく、協力的な関係にあることが強調された。更に、不認識や誤認識が人々に与える被害は文脈に依存し、多様なアクターが存在するため個別分野に着目する必要性が確認された。

西條氏のコメントでは第3章の「発達障害を見える化するAI」、第15章の「AIを描いてみよう!ーメディアの隠喩的理解を育むワークショップ」が取り上げられた。ASD(自閉スペクトラム症)者の感覚過激・鈍麻を見える化する知覚シミュレータがインクルーシブ社会の設計に与える有益な影響が描かれていること、多様なアクターにAIのイメージを描いてもらうワークショップに未来志向かつ民主的な姿勢が見えることを評価した。一方で、リプロダクティブヘルスに関する記述では、妊娠・中絶・出産を経験する主体がシスジェンダー女性だけではなくトランスジェンダーの男性やノンバイナリーの人たちの存在を考慮する必要性があると指摘した。

最後のパネルディスカッションでは、非没入型デバイスとアバターの複数ログインに関する問題、AIの著作権とクレジットについての議論、メタバースとSocial VRにおけるコミュニケーションの課題、AI技術の民主的な意思決定と技術説明の公正さに関する議論が繰り広げられた。このように本イベントはAI社会が現実となりつつある中、人・社会は今後どのように向き合うべきなのか、複数の角度からAIと社会の関係性を見つめ、その未来を見通す上で示唆的であった。