REPORTS

2021年度第8回BAIRAL研究会「現場から見るデータジャーナリズムの可能性と課題」報告

加藤大樹(B’AIリサーチ・アシスタント)

・日時:2022年3月15日(火)18時~19時半
・場所:Zoomミーティング
・言語:日本語
・モデレーター:加藤大樹
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2022年3月15日(火)、B’AIグローバル・フォーラムのリサーチ・アシスタントが主催する研究会「BAIRAL」の2021年度第8回がオンラインで開催された。今回は、東洋経済の「新型コロナウイルス 国内感染の状況」でグッドデザイン賞などを受賞された荻原和樹さん(スマートニュース メディア研究所)にお話を伺った。まず荻原さんから、これまでのご自身の取り組みやデータジャーナリズムに関する基礎知識、また日本におけるデータの利活用とジャーナリズムの現状についてご講演いただき、その後オーディエンスを交えて関連する話題について議論をおこなった。

一般的に、日本の報道機関は他の国の報道機関と比べて、ニュース報道におけるデータの可視化や利活用という点で後れをとっている。荻原さんはそうした状況を引き起こしているいくつかの要因があると指摘し、例えば日本における調査報道の少なさや、インタラクティブなデータ表現に対応していないYahoo! Japanがオンラインで一強状態にあることなどを挙げる。しかし新型コロナウイルスの感染拡大以降、データ可視化は日々のメディア報道でも広く使われるようになり、日本でも徐々にデータジャーナリズムに注目が集まりつつある。荻原さんは、日本においてデータジャーナリズムをより一般的なものにするためにも、公的機関による生データの公開と、報道機関によるデータの利活用との間に存在するギャップを解消する必要があると説く。データジャーナリズムの普及を妨げる障壁の一つとして、データ分析になじみのない人にとっては生データの処理や加工にかかるコストが大きいという点が挙げられる。したがって、データ分析の専門家が積極的にOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)を構築し、データを誰にとっても利用可能な形で公開する必要がある。実際に、荻原さんは現在、日本のデータ利活用を促進するためにOSSプロジェクトの運営にも参画している。

荻原さんによる導入の後は、出席者を交え、データ可視化の社会的意義や可視化にふさわしくないデータなど、様々な点についてディスカッションをおこなった。そうしたいくつかの論点の中でも、複数の参加者から疑問の声が上がったのが、報道機関によるデータジャーナリズムとデータ可視化を活用した市民のジャーナリズム的実践との間にどのような違いがあるのか、という点だ。その点について、荻原さんは、一つの大きな違いとして信頼性を挙げる。すなわち市民の活動と比べると、専門的なジャーナリストの活動はよりデータの出所に注意を払い、またデータソースやデータの処理方法を明記するなどして、誠実にデータを提示しなければならないということである。今のメディア不信の時代において、報道機関がそうした信頼できる報道を積み重ね、地道に信頼性を獲得していくことは特に重要だと思われる。

データジャーナリズムは大きな可能性を秘めているが、それと同時に、社会に遍在するデータを有効利用するためにはまだまだ多くの障壁を乗り越えなければならない。データの可能性を最大限に引き出すためにも、研究者と実務家双方がデータジャーナリズムに関してより活発な議論をおこない、データを利用するための環境を整備していく必要があるだろう。