REPORTS

Trauma Reporting研究会 2023年度報告

河原理子(東京大学大学院情報学環特任教授)

・開催日:⑲2023年6月4日、⑳11月23日、㉑2024年1月21日、㉒2月13日
・場所 : ⑲⑳㉑ Zoomミーティング
    ㉒ Zoomウェビナー & 東京大学大学院情報学環・福武ホール
・使用言語:日本語、英語
・座長 : 河原理子(東京大学大学院情報学環特任教授)

Trauma Reporting研究会は2023年度、読書会のほか、公開講演会などを開催した。

第19回では、Trauma Reporting: A Journalist’s Guide to Covering Sensitive Stories (Jo Healey)の第11章「倫理」を読み、残り1章となった。

第20回は、「ジャニーズ性加害問題から男性の性暴力取材と報道を考える」と題して研究会メンバーの記者が報告。記者会見での質疑で気になった点、男性サバイバーの取材で留意すべきこと、報道後のSNSなどでの中傷からサバイバーをどう守れるか、などを話し合った。

第21回は、ゲストを招いて勉強会をした。ゲストの遠藤まめたさんは、LGBTの子ども・若者の居場所づくりをしてきた一般社団法人「にじーず」の代表で、オンライン署名サイトのスタッフでもある。インターネットとLGBT、ネットを使った社会運動の利点と弱点、ネットと反差別運動などについてお話を伺った。取材者が「ニュースのトピック」だと考えることと当事者の生活や意識とのズレについても話し合った。

第22回は、この研究会としては初めての公開講演会「トラウマ報道:ジャーナリストのための心のレッスン(Covering trauma: Building mental fitness for journalists)」(逐次通訳あり)を開いた。演者は、オーストラリアの心理学者Dr. Cait McMahon。彼女は、Trauma Reportingの本では「セルフケア」の章を書いている。新聞社のカウンセラーとして1980年代に働き始めて研究に進んだ、トラウマとジャーナリストのかかわりについての第一人者である。

日本ではジャーナリスト自身の傷つきについて、十分に光があてられないまま来たが、ジャーナリストが自分の心の痛みに向き合って、その仕組みや対応を知ることは、人の痛みを深く理解する助けとなり、より的確で持続性のある報道につながるはずだーーと考えて、McMahonさん来日の機会に講演会を企画した。

東大会場には、惨事ストレスに詳しい松井豊・筑波大学名誉教授ら「報道人ストレス研究会」のメンバーも参加。一般公開はオンラインで実施し、事前登録者は事後視聴できるようにした。報道関係者のみならず、心理職、精神科医、学部生・院生など幅広い人たちが、全国から、あるいは国外から参加。参加登録者は250人を超えた。

講演でMcMahonさんは、「トラウマの影響を受けることは、恥ずかしいことではなく、人間なのだから当たり前」だと明言した。ジャーナリストのレジリエンス(精神的しなやかさ、回復する力)は一般的に高いが、その道のりは平坦ではないという。惨事の現場に行く場合だけでなく、生々しい画像を見たり、オンラインで罵詈雑言を浴びせられたりする場合にも大きなダメージを受けることを指摘。脅威について知り、的確な対処方法を身につけることが大切だと話した。そして、対処方法として、深呼吸、「これまでに行ったことのある静かで安全な場所の光景を思い浮かべる」「なぜ私はジャーナリストになりたいのかなど、使命と目的を自問自答して書き留める」「悪夢を繰り返し見る場合は……」「オンラインで攻撃された場合は……」など11項目を具体的に示した。

2時間余りの講演は濃密で、具体的。参加者からは、「記者を続けてきた中で何がつらかったのか初めて理解できた」といった感想や、続編を望む声があり、関心の高さが伺えた。

新年度も、できれば公開講演会を企画したい。